東京パラリンピック本番会場での第4回全日本パラ馬術大会(主催・日本障がい者馬術協会)は最終日の11月29日、フリースタイルテストが行われ、グレードⅡでは60歳の大川順一郎(蒜山ホースパーク/国立大学法人鳥取大学乾燥地研究センター)が初優勝を飾った。
パラ馬術は、審判が定められた項目に対して10点満点で得点を出し、その合計を得点率で算出。5人の審判の平均の得点率で順位が決まる仕組みだ。フリースタイルテスト(自由演技)では、音楽にあわせて自由に創作した経路で競い、芸術性が重視される。
大川は、芦毛色の「童夢号」とともにこの日のフリースタイルテストに出場。前半はのびのびとした常歩(なみあし)、後半はリズミカルな速歩(はやあし)を披露し、得点率は63.122%をマーク。同じクラスで強化指定の吉越奏詞(四街道グリーンヒル乗馬クラブ)や宮路満英(リファイン・エクインアカデミー/セールスフォース・ドットコム)を抑え押さえて4人馬の中で優勝した。
大川は中学時代から乗馬に親しみ、大学では同好会に所属。大学卒業後には障害馬術で鳥取国体にも出場経験がある。体に異変が起きたのは3年前の夏。大腿部や手指の筋肉が萎縮し、筋力が低下する進行性の難病「封入体筋炎」が発覚した。治る見込みはなく、将来は車いす生活になる可能性があり、肩を落としていた矢先に勧められて出会ったのがパラ馬術だった。
パラ馬術の競技歴はまだ3年と浅く、強化指定でも育成指定でもない大川。この日の優勝については、「今までの私の成績から考えると、これが現実なのかまだ信じられない」と自身でも驚いていた。
好成績の要因の1つが、鞍に乗せて衝撃吸収ができる「シートセーバー」。病気の影響でお尻の筋肉が少ないため鞍をつかみきれない上に、これまで大会や練習中に「鞍ずれ」を起こしてしまい、痛みと戦ってきた。今大会の1ヶ月前から取り入れたことで、安定した演技につながったという。
もう1つの要因が、リニューアルされた馬事公苑の砂。欧州産の砂とフェルト素材を混ぜたもので、グリップ性能に優れている。「これまで童夢の足音を聞きながら動きの判断をしてきた分、ここの砂は静かではあるが、のびのびと大きな常歩と速歩で歩いてくれた。馬の脚に負担がない馬場として、とても素晴らしい」と、童夢号を思いやる笑顔を見せた。
昨年で小学校教員を定年退職した大川の目標は、4年後のパリパラリンピックに出場することだ。同じ病気の人々の希望になるだけでなく、「60代のおじさんたちの代表として自分にチャレンジし続けたい」と意気込む大川。挑戦はまだ始まったばかりだ。
同じグレードⅡでは、大川より40歳下、20歳の吉越奏詞が2頭の馬で出場し、2位と3位になった。
このうちエクセレント号は世界のトップクラスとも十分戦えるような馬と言われ、騎乗技術も高度なものを必要とする馬だという。それでも「速歩が抜群によく、前に前に華麗に動ける。しっかりフォローすれば得点率は70超えを目指せる」。東京パラリンピックには出場するだけでなく、金メダルを取りたいと宣言した吉越。本番と同じ会場での大会開催は、大きな糧になっただろう。
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