厳重なコロナウイルス感染対策のなか、9月5日より2日間、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で、日本パラ陸上競技選手権が開催され、日本で唯一の女子両足大腿(だいたい)義足のスプリンター、湯口英理菜(日本体育大学)は、200mT61を、41秒27で走り自身の世界記録を更新した。同じ日、湯口は走り幅跳びにも出場、2m58の跳躍でアジア記録を刻んだ。
目標とするのは両足義足のロングジャンパー、バネッサ・ロー(オーストラリア)。10歳年上で、ただ一人のライバルである。走り幅跳びの記録は5m16でアジア記録の湯口には大きな存在かもしれない。しかし今のところ、世界で、このクラスには彼ら2名しかエントリーがない。あきらかに選手不足でありパラリンピック出場には至らない。競技者が少ないと、パラリンピックには種目が設けられない。
女性、重度障害者のスポーツを盛り上げよう
選手の減少によりパラリンピックでの種目がなくなってしまった種目もある。女子100mT52(車いす)である。リオパラリンピック(2016年)では7人いた選手が、ベルギーのメダリスト・マリーケ・フェルフールトが惜しまれつつ死亡するなどで減少してしまい、昨年の世界選手権で5人になっていた。
今年5月、IPC(国際パラリンピック委員会)は完全に女子100mT52を種目から除外、日本のこの種目のメダリストである田中照代(銀メダル)、木山由加(銅メダル)の2人が残念なことに東京への道を断たれた。
湯口の場合は、これまであった種目がなくなったわけではない。記録を残すことが、潜在する選手たちのシンボルになり、ライバルを増やすことができるかもしれない。
世界中どこでも障害のあるアスリートや、アスリートを目指したり、憧れたりする人がいることを考えると、湯口のような重い障害のある女子選手が活躍することはとても意義深い。健康や経済など社会で不利な状況に置かれることの多い重度障害者や女子選手が、スポーツで世界とつながる夢や目標を持つことになるからだ。