「第31回日本パラ陸上競技選手権大会」(熊谷スポーツ文化公園陸上競技場)は9月6日、2日間の日程を終えた。東京パラリンピックの延期が決定されてから初めてとなる、全国規模の大会。コロナ対策が徹底される中、開催の成果やモデルケースを示せた大会となった。
記録ラッシュ! 内定者・若手ともに自身の現在地を知れた今大会
2日間の日程でトラック8種、跳躍2種、投てき3種の計13種目が行われた今大会では、世界記録やアジア記録、日本記録、大会記録が目白押しとなった。このうち25歳の古屋杏樹(T20・知的障害クラス/彩tama)は女子1500mに出場し、4分36秒56のアジア新記録を樹立して優勝。東京パラリンピックの出場を争う世界ランキングは7位から2位に浮上した。大会を振り返り、増田明美日本パラ陸上競技連盟会長は「記録更新は、選手たちからの『ありがとう!』の言葉」だと話していた。
「(ランキングが)2位になってとても嬉しい。理想のレースペースよりは少し遅かったが、これまで上げられなかった最後の1周を上げられたことが記録につながった」と喜びを口にした。好調の秘密は、減量。去年11月の世界パラ陸上(ドバイ)の時よりも5、6キロ絞り込んだ体が、記録の更新につながった。
また男子10000mでは、すでに東京に内定し、4度目のパラリンピックで悲願のメダルを目指す堀越信司(T12・視覚障害クラス/NTT西日本)が32分23秒61でアジア記録を更新した。本来であれば、東京パラリンピックでの自身のレースが行われるはずだった今日。自信を持ってスタートラインに立てた一方で、来年へのモチベーションを再認識する大会となった。
1年延期の「創意工夫」。これから内定を掴む選手たちの試行錯誤
東京パラリンピックが延期になったことで、新たなことに挑戦する選手や葛藤を抱く選手もいる。
ロンドン・リオに続いてのパラリンピック出場を狙う高桑早生(T64・下腿義足クラス/NTT東日本)は、今年7月に新しくした義足で初めて、女子100mの公式戦に出場した。課題としていた後半に向けた加速も改善し、13秒76をマーク。
「今までの義足は海外製で板の部分が大きかったので、身長157㎝の小柄な体に合わせるために新調しました。また、板の部分に空洞を作ることで空気抵抗を少しでも減らす工夫をしました」と話した。新しい義足に合わせて、走り方も見直してきた高桑。走り幅跳びの義足はこれまで通りで、今後は2つの義足を使い分けていく方針だ。
平昌パラリンピック金メダリストで、夏冬の「二刀流」に挑戦している村岡桃佳(T54・車いすクラス/トヨタ自動車)は100mでセカンドベストとなる16秒67だった。パラリンピック1年延期については、「2022年の北京パラリンピックもあるし、(調整に)不安はある。でも、自分にとってスキーも陸上もどちらも大事なもの。残り1年、本気で取り組んでいきたい」と複雑な心境を吐露した。
記録樹立は選手たちからの「ありがとう」。開催は今後のモデルケースに
新型コロナウイルスの影響で開催が懸念される中、走り高跳びT64の鈴木徹(下腿義足クラス/SMBC日興証券)をはじめとしたアスリート委員の要望が後押しとなり実現された今大会。無観客での開催や取材メディアの健康管理など、対策を徹底して2日間の日程を無事終了した。選手たちから異口同音に出たのは、「大会の開催に感謝したい」という言葉だった。
日本パラ陸上競技連盟の増田明美会長は、「数々の記録の樹立は、選手たちの感謝の気持ちの表れだと思う。試合に出たいという枯渇感もあっただろうし、『ありがとう』が形になったのでしょうね」と感慨深い表情。練習の制限があったにもかかわらず選手たちが結果を残していることについては、「しっかり頭を使っているのだと思う。今でき得るベストを尽くしているし、『自分に負けない』という証だ」と評価した。
また、10月に日本選手権を控えている日本知的障がい者陸上競技連盟の奥松美恵子理事長は、「今回が中止になっていたら、来月の知的の大会も中止にする予定でした。2日間の日程を無事終えたことで、自信を持って臨める」と話した。
「やるかやらないか」ではなく、「どうやるか」を実現した「第31回日本パラ陸上競技選手権大会」。今後の他競技のモデルケースとしても示すことができるだろう。
(校正・望月芳子)