新型コロナウイルス(COVID-19)感染防止対策で世界中で競技大会中止があい次ぐなか、日本の選手が東京パラリンピック出場資格をかけたドバイでのパラ陸上2大会も中止となった。3月10日、深夜22時30分、やり投げ(F12/視覚障害)で東京パラリンピックを目指す若生裕太は遠征先のドバイから帰国した。
4日、現地へ向かう機内で「第10回シャルジャオープン(UAE国内大会・7日から)」の延期を知り、現地入りした5日、「ワールドアスレティクスドバイ大会(国際大会・14日から)」は中止と主催者から告げられた。試合が行われる予定のドバイの会場で数日間練習。予定より10日早い帰国となった。
「ドバイで、東京の出場資格を獲得するつもりでしたので、とても残念です。メンタルのピークもここに向けてつくってきたし、遠征費も多くの人の支援でまかなっている。当分の間やり投げの種目が行われる公式大会がないので、休息をとってから、5月のジャパンパラに向けて体づくりしていきます」
現在大学4年生の若生は、2年前「レーベル遺伝性視神経症」を発症し、視野の中心が見えない。週2回の投擲練習とトラックで100m走の選手らとトレーニングを週5日している。飛んでいくやりの方向を視覚で確認できない若生は、見てもらいながら投げたり、良い感覚を覚えて積み重ねたりしながら、徐々に長い距離を投げることができるよう調整を繰り返している。
幼い頃から親しんだ空手、高校野球で培われた身体能力と集中力で昨年はパラ陸上デビュー1年で自己ベストを9m伸ばす大きな成長があった。
昨年7月のジャパンパラ陸上競技大会(岐阜市)で日本記録の56.94m(=世界5位)を打ち出したが、派遣指定記録の57.02mへ届かず、昨年ドバイでの世界選手権出場を逃した。9月のパラリンピックでは障害の一つ軽いF13クラスへ統合(コンバインド)され競技が行われる。F13でメダルを目指すにはあと少しの機会が必要だった。
「日本人は(コロナウイルス感染の)風評被害を受けていると感じる出来事もありました。それでも、ホテルのスタッフやお店の店員は快く接してくれることがほとんどでした。自分たちも日本で海外の方を風評で差別してしまうことがありますよね。そういうことをしてはいけないと思いました。早く収束することを願っています」
若生は短い旅のなかで感じたことを話してくれた。旅の疲れとともに、試行錯誤で取り組んできた練習の疲れを癒し、思いを、9月の東京パラリンピックでの試合につなげてほしい。
(写真・取材協力:視覚障害メディア「Spotlite」/高橋昌希)