12月28〜30日の3日間、横浜で知的障害男子バスケットボール日本代表合宿が行われ、全国からの約30名の選手のほか、コーチ、会場となった神奈川県立横浜緑ケ丘高校(横浜市中区)バスケットボール部の選手・マネージャー10名からなるボランティアが年末の体育館に集まった。
「(ボールに)まったく無関心じゃないか!」タイムアウト後メンバーを集めると円陣から監督の声が響く。選手たちは戸惑い、反応できない。
言葉から身体へ。考えて、緻密に身体を動かすバスケットボールは、難しい。それでも、繰り返すことで、身に付けるしかない。
日本での知的障害バスケットボールは、実業団選手を経た小川直樹監督がシドニー・パラリンピックに向けて1999年ヘッドコーチに就任し現在に至っている。
最初に巡ってきた機会は、いきなり「パラリンピック」だった。2000年シドニー大会で開催された知的障害男子のバスケットボールに小川ジャパンとして出場。8か国中8位に終わり、4年後のリベンジを誓うも束の間、当時起きたスペイン代表チームによる不正事件(選手資格詐称=障害のないものが混じって金メダルを不正に獲得した)の発覚により、パラリンピックへの知的障害(全競技)の参加が見合わされることとなった。
以後、同じ知的障害で水泳・陸上・卓球は2012年ロンドン大会で復帰したが、バスケットボールの復帰の目処がたたないまま20年が過ぎようとしている。その間も、小川監督と日本代表チームは活動を続けた。
小川監督は、一貫して「バスケットボールは、ハビット(=habit;習慣の)スポーツだ」と言っている。コートで培われたことは、社会のなかで生かされると。
「選手に厳しいことをいうと思いますが、それだけレベルの高い選手が集まっていると思います。今回も全体的に進んだと思います。それに、若い指導者たちも育ってきていて、環境としてとてもいい状況が育ちつつあります。強化した選手が「円熟」とは言えない、まだまだ発展途上ではあるが、5〜6合目であって、すごく楽しみな状況を迎えています」と、小川監督は3日間の合宿を終えた感想をのべていた。日本代表の強化選手は14名が参加した。育成から強化への移行を遂げた選手もいた。
日本代表は、2年に1度の世界選手権、4年に1度のグローバル大会へ出場する。現在は2021年に開催される世界選手権をめざしている。ライバルは、ポルトガル、ポーランド、フランス オーストラリアであり、強豪ぞろいである。
「とくにフランスは2メートルを超えるような選手が複数出場している。立体的にはかなわない。テクニックによる平面バスケットでいかに精度高くできるかが目標だ」と小川監督は話す。
また、現在全国6ブロックに別れ、各地域での育成の活動が行われている。育成は同時にアジア地域での国際試合により交流を深めながらレベルアップを図り、日本代表への順調な移行を目指している。来年2月には韓国での遠征がある。いずれ、6か国ぐらいが集まり大会を開催するなど、アジア全体への強化も視野に取り組まれているようだ。
課題は競技環境
東京パラリンピックを目前に控え、パラスポーツではつねに課題とされる競技環境の問題が知的障害バスケットボールでも認識されていた。
今年、ブリスベン(オーストラリア)で行われたグローバル大会で女子が金メダルを獲得するという日本初の快挙を成し遂げたものの、その一方で資金不足により男子日本代表は出場を見合わせていた。
現在JSC(日本スポーツ振興協会)などから強化費が支給され、遠征活動が行えるようになった。チームをより良い状況にしていくためには、これら遠征費を有効に活用していく必要があり、厳しい選択を迫られたのだった。
また、これまでの合宿は、横浜緑ケ丘高校バスケットボール部などの協力により素晴らしい展開を得ている。今後も地域の学校や企業などの協力が欠かせないところだが、つねに練習場所や協力してくれるボランティアが確保できる状況ではないという。
「練習は選手だけでは上達しないので、できれば、学生や社会人に相手してもらいながらやっていきたい。バスケットボールを通じて学生にとっても勉強の機会になると思います」と、長年苦労を重ねてきた小川監督だが、目の前の課題に対してあくまでも前向きに取り組もうとしていた。20年の取り組みを生かした新たな環境づくりができることを願ってやまない。
<参考記事>
女子日本代表が金メダル!祝勝会が開催される(12月28日)
http://www.paraphoto.org/?p=24713
ブリスベンへ出発する知的障害女子バスケットボール日本代表(10月9日)
http://www.paraphoto.org/?p=23729