スピード、駆け引き、持久力。車いす1500mレースはなんと総合力が問われる種目だろう。「ドバイ2019世界パラ陸上競技選手権大会」5日目の11月11日(月)、男子1500mT54(車いす)の決勝が行われ、タイのプラワット・ワホーラム(WAHORAM Prawat/T54・タイ)が金メダルを獲得。日本の鈴木朋樹は8位、樋口政幸は9位だった。
レースの命運を左右する位置どり
激戦の1500m。世界強豪選手がひしめく決勝レースに、日本人選手2人が駒を進めた。「課題は位置どり」。予選でそう語っていた鈴木。短距離のスピード力やフィジカルだけでは計れないのがこの種目の難しさだ。決勝レベルでは、格闘技のごとく位置どり争いが繰り広げられるという。
金メダル獲得のプラワットはレース後、「全力を出せて嬉しいです。今日はゲームの流れに乗ったことがメインの勝因です」とレースを振り返った。
スタートから序盤は5番手に位置したプラワット(青色ユニフォーム)だが、勝負をかけたのは残り約500m。アウトサイドからロシア選手を抜いて4番手に躍り出たプラワットはその後、次々と他の選手を抜き去り、2番手に。その後もスピードを落とさず、最後の第4コーナーでついに先頭になったプラワットは直線を独走。「勝負あり」と、ゴールの瞬間はガッツポーズで走り抜けた。
なにが起こるかわからない1500m
一方、2週目まで先頭でレースを引っ張り、アメリカの新エース、ダニエル・ロマンチューク(ROMANCHUK Daniel/T54・アメリカ)とのデッドヒートを繰り広げたベテラン選手マルセル・フグ(HUG Marcel/T54・スイス)はレースの舞台裏を明かした。「色々な事が起こりました。今日はロマンチュークがリードすることを予想していましたが、そうはなりませんでした。でもその後、彼が早いうちから仕掛けてきて、タフなレースになりましたね」と駆け引きの難しさを語った。
日本勢最高の8位だった鈴木朋樹はスタート直後は3番手に位置どり。「序盤に関しては、自分のやりたいことが出来たかなと思います。自分の入りたいところに入れた。後半に関しては持久力が必要ですね」と振り返る。9位の樋口政幸は「ペースが落ち着いたら前に出るプランを考えていたんですが、ずっとハイペースのレースだった。ポジションを開拓できないまま終わってしまいました」と悔しさを滲ませた。
「何が起こるかは、誰にもわからない」。マルセル・フグの漏らした言葉が印象に残る。速いだけでは勝てない駆け引きの世界。1500mには陸上の醍醐味が詰まっている。
(校正・佐々木延江)