東京2020パラリンピック競技大会に向け、パラリンピック競技の迫力や楽しさを伝える取り組みが盛んだ。現在、千葉・幕張メッセで開催中の東京2020テスト大会を兼ねた「天皇陛下御即位記念 2019ジャパンパラ ゴールボール競技大会」では、障害の有無などさまざまな観客への新しい観戦スタイルが登場した。
「音の観戦」でコートに立てる?
ゴールボールはアイシェードという目隠しをした状態で鈴の入ったボールを投げ合う競技で、ボールの転がる音や、相手の足音、床の振動などさまざまな音を聞き分けて戦う「音の攻防戦」だ。観客席ではなかなか知ることのできないそれらの音を楽しんでもらおうと、体感型のヘッドホンが開発され、テスト大会で試験導入された。
「Sound Realize(サウンド・リアライズ)」では、まるで自分が選手になったかのような臨場感が味わえる。秘密は3つのマイク。ゴール裏には360度録音可能なマイクを2つ、さらにゴール横にもマイクを取り付けることで、多角的な方向から音声を拾いリアルなシーンを再現した。ボールの鈴の音が近づいてくる感覚や、「右だよ、右!」、「集中しよう!」といった、プレー中の選手同士の会話まで明瞭に聞き取れる。
また、コート上の音を可視化する「Sound Visualize(サウンド・ビジュアライズ)」は、選手が聞き分けているボール音の微妙な違いや強弱、音によるフェイントなどを見える化し、波紋で観客にも理解できるようにした。映像では、音の強さによって変わるグラフィックや、ボール速度などを表示。データを活用すれば海外選手との比較もできそうだ。
視覚障害者向けのラジオ解説は、思わぬ効果も
視覚障害者が楽しめる工夫もある。ゴールボールの大会では実況中継を聞くことができる。今大会ではラジオ端末を1000台用意し、会場内でFM放送をオンエアしている。放送では、基本的なルールのほか、アイシェードなどのパラスポーツ独特の道具の説明や、それぞれのチームの特徴、守備位置などの戦略まで、日本ゴールボール協会の専門家が豊富な知識でわかりやすく解説してくれる。視覚に障害がある人が音で楽しめるのはもちろんだが、実は、初めてパラスポーツを見る人にも、見どころやゲーム戦略がわかりやすく、好評だ。端末は誰でも無料でレンタルできる。
こうした取り組みは、現在試験段階で、東京2020大会本番での導入が検討されている。だが、本質はその先にありそうだ。国際パラリンピック委員会の据える大会目標は「パラリンピックムーブメントの推進を通してインクルーシブな社会を創出する」こと。競技の盛り上がりだけでなく、パラリンピック開催をきっかけに、日本は誰もがスポーツを楽しめる「ユニバーサル観戦」のスタンダードを築くことができるか。長期的な視座が求められる。
(編集協力/校正・佐々木延江)