関連カテゴリ: ジャパンパラ水泳, 取材者の視点, 地域, 夏季競技, 横浜, 水泳 — 公開: 2019年9月26日 at 8:18 AM — 更新: 2021年9月7日 at 10:02 AM

東京パラへ秒読み態勢。若手・男子に成長あり、ジャパンパラ水泳で大暴れ!? 日本最高峰のパラ水泳3日間が閉幕

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9月23日(土)ジャパンパラ水泳競技大会は、海外からの20名を含む約480名のスイマーにより、41の日本新記録・51の大会新記録が更新され閉幕した。
7日間にわたるロンドン2019パラ水泳世界選手権を終えたばかりの代表選手たちは疲れのある中でも良いタイムを維持し、若手選手たちの挑戦を受けとめた。東京2020へ向けた1年となるこの時期に、それぞれがどんな泳ぎをしたか、振り返る日がきたなら、それは決して悪くない泳ぎだったと思う。そんな3日間だったのではないだろうか。

100mバタフライ決勝前の久保大樹(右)と萩原虎太郎(左) 写真・秋冨哲生

久保大樹、萩原虎太郎が東京へのMQS突破!

「ロンドン(世界選手権)で日本チームの活躍の中に自分がいない。出れたら戦えたのに!俺を連れていけ!って思いました(笑)。まだまだ31歳なので、これからも伸びていきます。最終的に1分切らないといけないけど、3月には1分0秒に限りなく近いタイムで泳ぎます」と、100mバタフライで1分2秒86の自己ベストを0.88秒更新した久保大樹(KBSクボタ)は、記者たちに語っていた。

最終日、最終種目となる男子100mバタフライで久保は、ロンドン2019パラスイム世界選手権6位のMARI ALCARAZ Jose Antonio(スペイン)と競い、2位。1分2秒86の自己ベストを更新し、東京パラリンピックへのMQS(=3月の派遣標準記録=1分3秒41)を切った。ライバルとなったJoseは「(山田拓朗と泳いだ)50m自由形に関しては、ロンドンの世界選手権よりもいいタイムを出せましたし、100mバタフライもとてもよく泳げて満足しています」と話していた。

男子100mバタフライS9 決勝を泳ぐ久保大樹 写真・秋冨哲生

7年前、神経疾患の難病・ギランバレー症候群を発症し一時は首から下が動かなくなった久保。ジャパンパラ水泳の観戦がきっかけでパラ・スイマーとして選手活動に復帰した。クラスはリオパラリンピック50m自由形銅メダリスト・山田拓朗(左腕欠損・NTTドコモ)と同じ「S9」に分けられた。昨年ついにインドネシア2018アジアパラ競技大会に出場、100mバタフライS9を自己ベストの1分5秒40で泳ぎアジアチャンピオンになった。

久保は更に上を目指し、パラ水泳世界選手権に挑戦しようと3月の世界選手権の代表選考会に挑んだ。自己ベスト1分3秒74を出したが派遣標準を突破することができず落選した。ロンドンで世界選手権が行われているころ、久保は地元大阪の近畿大学のプールで柴谷拓耶コーチとともに猛特訓に励み、合宿でも自己ベストを更新した。更に自分のタイム、伸びしろに挑み続け、来年3月の代表選考会を目指す。

山田、久保、萩原、窪田/34ポイント・リレーアジパラ組復活?


インドネシア2018アジアパラ競技大会・34ポイント・リレーで優勝した(左から)久保大樹、萩原虎太郎、窪田幸太、山田拓朗 写真・筆者撮影

昨年のアジアパラでは「34ポイント・リレー」でチームで世界を目指す可能性が出てきた。S9の山田拓朗、久保大樹のほか、一つ障害の重いS8の萩原虎太郎(セントラルスポーツ)、窪田幸太(日本体育大学)である。山田や久保のS9クラスは人数が多い激戦区である。特に山田のメイン種目である50m自由形はタイムがすぐに更新されつねに一触即発の危機に直面している。長いあいだ一人ここに取り組んできた山田にとってもリレーは仲間を増やし、ともに取り組める場として新たな希望となっていた。

最終日、男子50m自由形S9決勝を終えた山田拓朗とMARI ALCARAZ Jose Antonio(スペイン)。Josegaが世界選手権よりタイムをあげ26秒36で1着、山田は26秒40で2着となった。 写真・秋冨哲生

選考基準を絞り込まれた3月、リレー代表としての4人の合計タイムがわずか0.06秒足りず、個人種目で派遣標準記録を切っている山田以外の新人3人は代表入りを逃していた。今回のジャパンパラで、萩原は、東京パラへのMQSを400m自由形と100m自由形の2種目で切るタイムで泳いだ。窪田も出場3種目で日本新記録を更新している。アジアパラでのリレーチーム復活が見えた。

2日目、男子100m自由形で日本記録更新、東京へのMQSを切る泳ぎをした萩原虎太郎(セントラルスポーツ)萩原は400m自由形と2種目でMQSを切った 写真・山下元気

また、「S10」の南井瑛翔(比叡山高校)、川原渓青(国士舘大学)が競いつつ、出場種目の全てでともに日本記録を更新、34ポイント4×100mリレーには更に選択肢が増えて行きそうだ。

3日間の全てのレースで日本記録を更新した2人。男子50m自由形S10の表彰式。1位・南井瑛翔(比叡山高校)、2位・川原渓青(国士舘大学) 写真・秋冨哲生

長野凌生/ブラインド49ポイント・リレー
チームの再編成へ

ロンドン2019パラ水泳世界選手権49ポイント4×100mリレーに出場した日本代表チーム。左から石浦智美(S11・伊藤忠丸紅鉄鋼)、辻内彩野(S13・三菱商事)、木村敬一(S11・東京ガス)、富田宇宙(S11・日体大大学院) 写真・筆者撮影

11か国から44人のブラインドスイマーが参加したロンドン2019世界選手権の「ブラインド49ポイント4×100mリレー」には、日本代表が出場したが、予選・決勝ともに7位。今回の日本のメンバーはS11(全盲)で障害の重いクラスの多いチームとなっており、メンバー構成の課題を持ち帰った。今大会で、長野凌生(中央大学)が100m自由型S13で日本記録を更新、東京2020へ向けてリレー泳者としての可能性を見せてくれた。

男子50m自由形S13のスタート前の長野凌生 写真・秋冨哲生

「練習は50m、100m自由形を中心にしています。S13の100はパラ種目にありませんが、しっかりリレー泳者となって行けるよう取り組みます」と長野は話していた。

若手女子、一ノ瀬メイ

2日目、女子200m個人メドレーS9の表彰。1位・一ノ瀬メイ、2位・宇津木美都、3位・森下友紀 写真・山下元気

女子100mバタフライS9で世界ランキング11位の一ノ瀬メイ(近畿大学)は、インスタで励まし合うライバルGASCON Sarai(スペイン)とともに泳ぎ2位。1分11秒20の自己ベストを更新している。Saraiは世界ランク6位、ロンドン2019パラ水泳世界選手権のランク6位。一ノ瀬が世界選手権に出場していたら7位に相当する。ロンドンで場の雰囲気が後押ししたことを考えると、もし一ノ瀬が出場していても更にタイムを上げていたかどうかわからないが、なかなか出せなかった自己ベストをこのタイミングで出し、心から安堵した表情がみられた。

女子100mバタフライで接戦を繰り広げたサライ・ガスコン モレーノ(スペイン)と一ノ瀬メイ(近畿大学)写真・秋冨哲生

「ベスト出せて嬉しいが、サラに勝ちたかった。前半からテンポ上げて後半も落ちないよう攻めの泳ぎをした。ここで自己ベスト出さないとって思っていた。(3月の)選考基準は厳しく、世界選手権決勝残れたかもしれないと思った。世界選手権期間中モチベーションは下がったが、ここにきていろんな人に声かけてもらいやはりパラ水泳が一番好きだと思った。水泳に集中した生活ができて、楽しめているが、コーチが世界選手権に行ってしまい、自分が頼りとなった。東京に向けてライバル国のコーチは課題となる」

ーークラス分けでソフィ・パスコーなどの強い選手が同じクラスにきましたがどう受け止めていますか。

海外生活では毎日水泳に集中できているが、師事するコーチがライバル国のコーチであるというのは課題だ 一ノ瀬メイ 写真・秋冨哲生

「2月のメルボルンからソフィがS9にきたことはびっくりしてきつい中でも幸運だと思える。今日一緒に泳いだサライは背が高いわけでもないが、自分と同じ体の選手が自分とともに世界で活躍し戦えるということを嬉しく思います」

若手女子、鎌田美希

1日目の鎌田美希(立教大学)メイン種目の100m背泳ぎS8で予選・決勝と日本記録を2回更新 写真・秋冨哲生

一ノ瀬と同じ時期に成長をともにしてきた24歳の鎌田美希(立教大学)は、2013年、アジアのベストユースアスリートにも選ばれ成長してきた。今大会初日の女子100m背泳ぎS8で予選・決勝と日本記録を更新した。100m平泳ぎSB7でも自身の日本記録を更新して優勝した。
「この種目で3月の代表選考会も泳ぐつもりです。その後(東京2020など)に向けての具体的な目標は考えられない。日本で記録を更新しても、世界とのさが大きいことを感じています」と、鎌田は話していた。

知的障害の活躍と課題

先週末(9月15日)に閉幕したロンドン2012パラ水泳世界選手権で2つの種目で世界記録を樹立した日本代表。パラ競泳を始めて1年で男子100m平泳ぎで1分04秒95の世界記録を樹立した山口尚秀(瀬戸内温泉スイミング)は、ジャパンパラ水泳でも1分5秒62の大会記録を更新、韓国からの選手を迎える中で、激戦が繰り広げられた。年々競技人口が増していく知的障害のパラ水泳で、ロンドン2019ではじめて2人の日本人女子スイマーが世界選手権に出場した。

世界選手権日本代表と東京での代表を目指す選手にとって、9月6日・ロンドン2019パラ水泳世界選手権から連続した、パラ水泳国内最高峰の2019ジャパンパラ水泳競技大会が9月23日に閉幕した。

全てのレースが終わったあと、峰村史世日本代表監督は「(この後)来年の3月に選考会があります。そこで東京パラ日本代表決まる。その前に1月31日までのWPS(世界パラ水泳)公認記録が反映される。みんなで獲得した出場枠をどう争って掴んでいくか。まず3月に向けてさらに底上げする部分と、各自の所属での強化が鍵になっていきます」と、出場枠獲得に向けた選手と一体となった取り組みが続くことを話していた。

<参考>
MQS=国際大会参加標準記録
https://www.paralympic.org/tokyo-2020/qualification-criteria

(取材協力・丸山裕理、校正・望月芳子)

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