ブラインドサッカーの日本一決定戦、「第18回 アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権FINALラウンド」が7月7日、調布市のアミノバイタルフィールドで行われ、埼玉T.Wingsが1−7で悲願の初優勝を飾った。
小雨の降るなか行われた決勝戦には、1000人を超える観客が来場。対戦カードは、決勝初進出のfree bird mejirodai(以下、目白台)と2年ぶり決勝進出の埼玉T.Wings(以下、埼玉)で、ともに10代の若手選手の活躍が目覚ましいチームだ。6月に福島県で行われた予選ラウンドでは、グループリーグを圧倒的な得点力で突破し、決勝まで勝ち進んだ埼玉がこの日も躍進。「ブラサカの澤穂希」と称される9番・菊島宙が活躍し、ダブルハットトリックを超える7得点のシュートを決め、勝利の立役者となった。
観客がどよめくスーパープレーが続出
菊島は17歳・高校生のエースストライカー。女子日本代表でもあり、今大会ではグループリーグから決勝までの6試合で29得点をあげたチームの得点源だ。パスワークから一気に相手ゴールまで迫るパワーが特徴で、シュートの正確性と高い空間認知能力を強みとする。
男子日本代表のキャプテン10番・加藤健人との連携も強さの秘訣だ。パスワークのうまい加藤が中盤でボールを奪うと、正確なパスで菊島へボールを運ぶ。まるでボールが見えているかのような直線的なドリブルで、菊島が一気にゴールを奪っていく。この日も、こうした連携プレーや素早い攻守の切り替えで試合の主導権を握った。
今大会で菊島が強化してきたのは、インナーマッスル。相手のチェックにも当たり負けしない体づくりを行なってきた。前半こそ相手選手に倒される場面があったものの、後半では「相手の動きを感じて、(身体の向きや力の入れ方などを)準備できるようになっていった」とトレーニングの手応えを感じていた。
菊島の強みは、バリエーション豊かなシュートにもある。高い位置を狙ったものから、低い弾道、股ぬき、さらにはボールをトラップしてからのシュートなど、多くのスーパープレーが飛び出した。ボールを奪ってから、一旦足元で止めたプレーについて菊島は「目白台の選手はほとんどの選手が全盲で、自分より耳が良い。一度音を止めないと(ボールを奪われてしまう)と思った」と語り、ブラインドサッカーならではのテクニックを明かした。
若き園部の1点が、次への布石
一方、初出場から3年目で決勝進出を果たした目白台は、あと一歩、優勝に届かなかった。7番・園部優月は試合後、悔しさを滲ませた。予選ラウンドの福岡戦では2得点を決め勝利へ導くなど、活躍が期待された15歳。決勝では、足がつるアクシデントに見舞われ、途中交代を強いられた。雨天による気温低下が原因としながらも、「どんな天候でも落ち着いて戦えるよう、体力を強化していきたい」と自身の課題を語った。しかし、初進出の決勝で貴重な1点を決めた園部。得意とする左サイドからのシュートは「めちゃくちゃうれしかった。自分のイメージ通り相手をぬいて、落ち着いてできた」と手応えを感じさせた。
チームの立ち上げから支えてきたエース11番・鳥居健人の目には、試合後、涙が滲んだ。「これまでは必死にやることで精一杯で、感情を表現する余裕がなかったんですけど。このチームは山本監督と一緒に立ち上げて、作り上げていくという事もやっているので、試合が終わって、選手としての気持ちが切れた瞬間、応援に来てくれた人たちのことや、いただいたメッセージが思い浮かびました」と特別な思いを口にした。
いちプレーヤーであった身から、チームの立ち上げにも関わった目白台。エースであり司令塔であり、さらには、チーム創設者である鳥居の思いは、若手選手に届いているはずだ。強みであるフレッシュなプレーを生かし、今後さらなる躍進が期待される。
令和初の日本一決定戦は、新時代にふさわしい大会になった。両チームとも10代の活躍が光り、若き新風を吹き込んだ今大会。ブラサカ界に新たな歴史が刻まれた。
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(編集・校正 望月芳子)