12月1日と2日に、三重交通Gスポーツの杜 鈴鹿水泳場(三重県鈴鹿市)でワールドパラ水泳連盟(WPS)公認・第35回日本パラ水泳選手権大会が開催された。全国各地から障害によるクラス分けと標準記録をクリアした523名(身体399名・知的124名)のスイマーが出場。参加者数は前年を上まわった。
この大会は毎年の最後に行われ、障害を負い競泳を始めたばかりというビギナー選手から、パラリンピック・チャンピオンまで幅広い選手がエントリーして行われる毎年恒例の大会である。
しかし、この大会が終われば、東京パラリンピックを目指す選手の道のりは、それ以外の選手とは違うものになるのではないだろうか。もちろん、どの選手にも東京への道はまだあるのかもしれない。ただ少なくともこの1年、世界と戦った選手は東京へとつながる道のりについて手がかり得た。自分自身と世界の距離、アジアの中での自分の位置づけが、この1年で見えてきたのではないだろうか。
アジアパラから凱旋した選手たちが表彰された!
2020年東京パラリンピックに向けて2年をきったこの2018年。トップ選手たちのもっとも大きな試合は10月、キャプテン鈴木孝幸が率いるジャカルタでの「インドネシア2018アジアパラ競技大会」だった。日本のパラ水泳は80個のメダルを獲得した。金メダル数では世界トップの中国に及ばなかったものの合計メダル獲得数ではアジアトップ。今大会は日本代表選手団の堂々たる凱旋レースとなった。
開会式では、アジア記録を更新したメンバーが表彰された。
東京まえ最後の総合大会となったジャカルタで、出場5種目全てで金メダルを獲得した鈴木孝幸(四肢欠損/GOLDWIN)は「キャプテンとしての役割を果たした」と、晴れやかな表情を見せてくれた。
チームは鈴木のもと、成田真由美、中村智太郎、山田拓朗、江島大佑などアテネパラリンピック(2004年)からの経験を踏まえたアスリートが、若手や新規に発掘された選手らとともに過ごし、食事や気候環境など易しいとは言えなかったジャカルタの日々を慎重なリーダーシップで乗りこえる機会をもった。
若手では、池あいり(日体大)、小池さくら(日体大桜華高校)らが、パンパシフィック、ジャパンパラ、アジアパラと経験し成長を見せてくれた。小池は昨年末ドバイでのアジアユースパラでは緊張でうまくレースできなかったが、今年のジャパンパラではアメリカのライバル、マケンジー・コーンと交流もし、思いのある400メートル自由形ではなく100メートル平泳ぎで記録を伸ばしていった。
日本パラ選手権1日目、100メートル平泳ぎを終えた小池に、アジアパラ後のオフについて話しかけてみると、
「試しに、1週間のオフをとってみたんです。友達とランチ行ったり、泳がずに過ごしたら、復帰するのがひどく大変だとわかりました。オフは多くても3日でいいです!」と、実験の結果を教えてくれた。
鈴木孝幸日本記録更新!<50メートル背泳ぎS4>
今大会1日目、キャプテン鈴木は50メートル背泳ぎS4で日本記録を更新する泳ぎを見せた。本人の自己ベストよりプラス1秒で「良いとも悪いとも言えない(本人)」タイムだったが、凱旋レースの鈴木を多くの報道陣がとり囲んだ。
鈴木は現在イギリスを拠点としている。アジアパラ後は日本に滞在、1月にはまたイギリスへ戻る予定。立教大学のプールで峰村史世コーチと後輩選手らと練習している。大会前日、練習時間ギリギリまでプールで翌日からのレースに向けた確認を峰村コーチとしていた。
「日本では落ちつける居場所もないんだよね」と話していた。しっかりとイギリスに練習拠点をおいているようだ。
鈴木同様、アジアパラでキャプテンを務めた全盲のエース・木村敬一も現在アメリカで練習、今大会は欠場している。
同着1位!山田拓朗と久保大樹 50メートルバタフライS9
山田拓朗(左前腕欠損/NTTドコモ)はアテネパラ最年少で出場し、世界のS9自由形のステージでの激戦を勝ち伸びてきた。今年春に結婚して横浜を拠点に心機一転の競技生活を始めていた。
そんな山田の後を追うようになったのは、ジャカルタで初の国際大会を経験したパラ選手として6年目の久保大樹(両手足機能障害/ケービーエスクボタ)だ。アジアパラでは100メートルバタフライで金メダルを獲得。「スタートラインにきた」と峰村日本代表監督も話していた。
1日目の50メートルバタフライで山田と久保は同タイム1位だった。
久保は、「山田選手はパラの経験がすごいのでいつも参考にしています。来年の世界選手権に100メートルバタフライに絞り出場したい。リレーに出場する可能性も踏まえ自由形も練習する。この冬に泳ぎこみたい」と話していた。
山田は、「アジアパラ後はオフとったが風邪をひいていました。自分は短距離をメインにします。東京で100メートル自由形がなくなってしまったので、50メートルで頑張りたい。バタフライなど違う種目でもスプリントの強化につながる種目に取り組み、この冬の泳ぎこみはしません。怪我や病気をせずにやって行きたい。久保選手は速いので東京でも一緒に泳ぎたい」とお互いの同着を楽しんでいた。
200メートル個人メドレーS14
この戦いはすでに東京に突入していると言っていいと思う。世界記録を守る東海林大(三菱商事)と、2016年・代表選考レースをクリアしてリオの本番で銅メダルを掴んだ中島啓智(あいおいニッセイ同和損保)。
ジャカルタでは東海林が勝利したが、この日は中島が東海林を制した。タイムは2分13秒66で東海林の世界記録2分8秒98から5秒近く遅いタイムだった。
「今回は順位は気にせずタイム優先にしたが、いいタイムにならなかった。苦手な平泳ぎはしっかり泳げたと思います。バタフライと苦手な平泳ぎのフォームを改善したい。3月(富士記録会)は全種目に出場したい」とレース後に中島は話した。
東海林は「練習してきたことを本番でもできるようにと考えていましたが、真っ白になってしまいました」と話した。緊張のため力を出し切ることができなかったという。
そして、東海林にとって次にひかえる3月の富士記録会は鬼門とも言える(2016年リオパラリンピックの選考に破れ、ライバルの中島に大きく水をあけられることになった)。パラリンピックの大舞台を経験した中島と世界記録をもつ東海林の闘いからは目が離せない。
(取材協力/写真提供:日本身体障がい者水泳連盟 校正・望月芳子)
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