日本で初の国際大会となる「北九州 2018 ワールドパラパワーリフティング アジア-オセアニア オープン選手権大会」(北九州芸術劇場)が9月8日から12日の5日間の日程で幕を閉じた。
「何も言葉が思い浮かばない…」
大会前の記者会見に出席したマクドナルド山本恵理(女子55㎏級/日本財団パラリンピックサポートセンター)。「パラリンピックが日本全体で盛り上がるように、たくさんの方に見てもらいたい」と意気込み、本番では「恵理!いけるぞ!」といったたくさんの声援が飛び交っていた。
しかし、試技の後ミックスゾーンに姿を現した山本の目には、涙が浮かんでいた。
3回とも試技が失敗に終わり、失格となったからだ。
「去年12月の世界選手権でも記録を残せず、9ヶ月間いろんなことに取り組んできたので…。正直いま心の整理ができていない」。
今大会は、試技に失敗すると選手本人が判定理由を聞けるシステム。1回目と2回目は胸の位置の”ため”が不十分であったこと。3回目は胸のために加えて、挙上時の左右のブレがあった。
その理由の一つが、右手首の腱鞘炎。バーをしっかり握ることもできず、痛みを我慢しながらトレーニングを積んできていたのだ。
水泳やアイススレッジホッケーの選手でもあった35歳の山本は、まだパワーリフティングを初めて2年。アジアパラ大会には参加せず、2020年のパラリンピックに向けて一歩一歩積み重ねる予定だ。
「重量よりも、技術」。自分のために、競技の普及のために。涙を拭いた山本は、改めて自分の課題と向き合っていく。
女子55㎏級では、ウズベキスタンのクジエバが優勝
挙上前の叫びが会場にこだました。山本が出場した女子55㎏級のチャンピオンは、去年の世界選手権3位のクジエバ・ルーザ(ウズベキスタン)。自己ベストタイの113㎏だった。
「緊張に打ち勝つために叫んでいる」。闘志をむき出しにした24歳のクジエバは、ミックスゾーンでは少しはにかんだ笑顔でそう答えてくれた。
「日本で初めて金メダルを獲れて幸せです。北九州は美しい街で、大会運営も食事もホテルも素晴らしくて、また来たいです。 2020年の東京パラリンピックでも、金メダルを獲りたいです」。来月のアジア大会でも、力強い試技と叫びに注目だ。
震災の影響で…
アジアパラ大会の日本代表にも選ばれている男子59㎏級の戸田雄也は、126㎏で自己ベストを更新、パラリンピック標準記録を突破した。
札幌在住の戸田は、北九州に移動する前日の6日に震災に見舞われた。6日はジムで最後の調整を予定していたが、停電のため断念。新千歳空港が使えず、旭川に移動して北九州までの飛行機に搭乗。大会会場でわずかな調整をして挑んだ。
車いすカーリングの選手でもある戸田は高い集中力を発揮して記録を更新したが、「130㎏に挑戦したかった」。パラリンピック標準記録突破のため、確実性を選択しての結果だった。アジアパラ大会では攻めの戦いに期待したい。
今大会、男子10階級・女子10階級の計20階級のうち8階級で世界新記録が生まれ、また日本勢では男子88㎏級の大堂秀樹(SMBC日興証券)が195㎏を挙げて銅メダルを獲得した。
また、男女13階級で中国勢が優勝し、圧倒的な強さを見せた。この強さの理由について、今後とも注目していきたい。
【今大会の世界記録】
男子
49㎏級 イザディ・アリ・レザ(イラン)記録140㎏ ジュニア世界新
59㎏級 クイ・ヨンカイ(中国)記録188㎏ ジュニア世界新
65㎏級 ガスティン・ボニー・ブンヤウ(マレーシア)記録180㎏ ジュニア世界新
88㎏級 イェ・ジヒョン(中国)記録233.5㎏ 世界新
女子
45㎏級 グオ・リンリン(中国)記録114㎏ 世界新
67㎏級 タン・ユージャオ(中国)記録139㎏ 世界新
73㎏級 アレンドス・ブリトニー(アイルランド)記録98.5㎏ ジュニア世界新
79㎏級 フー・リリー(中国)記録139㎏ 世界新
(校正・金子修平)