関連カテゴリ: 観戦レポート, 馬術 — 公開: 2018年9月20日 at 6:04 AM — 更新: 2018年9月30日 at 11:09 PM

トライオン馬術世界選手権・パラ馬術競技が開幕

知り・知らせるポイントを100文字で

投稿はこちら(メールソフトが開きます)

Soshi Yoshigoe & Brown Sugar (Photo Credit: Betty Cooper)
Soshi Yoshigoe & Brown Sugar (Photo Credit: Betty Cooper)
Tomoko Nakamura & Djazz F (Photo Credit: Betty Cooper)
Tomoko Nakamura & Djazz F (Photo Credit: Betty Cooper)

4年に一度の馬術世界選手権

2018年9月18日(現地時間)、トライオン国際馬術センター(アメリカ・ノースカロライナ州)で、2018年馬術世界選手権のパラ馬術競技が開幕した。

馬術の世界選手権は4年に一度開催される馬術の祭典。パラ馬術のほか、馬場馬術、障害飛越、総合馬術の五輪種目3競技と軽乗、エンデュランスの合計6種目が2週間に渡って行われる(パラ馬術の世界選手権が他種目と同時開催となったのは、2大会前の2010ケンタッキー世界選手権より)。開幕後第一週目は大型台風による影響で日程変更や競技のキャンセルなどがあるという困難な状況もあったが、この日の天候は回復。秋の日差しの中、順調に競技が開催された。

本大会では世界選手権では初めて、チーム競技以前に個人メダルの掛かった個人演技が実施された。パラ馬術は、規定の演技項目を含めた「経路」を回り、審判がそれぞれの項目を採点、5人の審判員の合計総合得点を競い合う仕組み。個人競技の演技の組み立てはチームテストよりも難しい構成のことが多いため、参加人馬は初日から全力をつくした戦いを求められる形となった。

18日はライダーの障害の度合いによる5つの種目分類(グレード)のうち3種目(グレードII,IV,V 個人演技)が実施された。

グレードIVは、オランダのSanne Voets&Demantur N.O.Pが優勝

最初に実施されたのはグレードIVで、12人馬が参加。
日本からは高嶋 活士&Emora C. VD Wijdewormer(9歳. / 牝 / KWPN )が参戦。高嶋 選手は元JRA騎手で、馬に関する知識は豊富。負傷後、フィールドを変えて馬術に挑戦している。今回の演技では前半の速歩部分で伸び悩んだものの、後半の常歩や駆歩部分で演技の活発さを取り戻し、63.659%を記録。12人馬中11位に終わった。FEI国際馬術連盟のFEI.TV公式中継解説者は「馬も9歳とまだ若く、これからこのコンビは成長するでしょう、期待しています」とコメントしていた。

優勝したのは2016年リオパラリンピック銀メダルコンビ、オランダのSanne Voets&Demantur N.O.P. (10歳/セン/KWPN)。すべての競技者の中で朝一番手の出場でありながら堂々の演技、73.927%の総合成績を収めた。
続く銀メダルはブラジルのRodolpho Riskalla&Don Henrico(15歳. /牡 / HANN)。彼はリオ五輪の馬術選手を目指してヨーロッパに渡航、トレーニングをしていたが、2015年に父親の訃報を聞いて帰国。その後、細菌性髄膜炎に感染したために右手と両足膝下、左手の指2本を切断。困難を乗り越え、パラ馬術選手に転向した経緯をもつ(1)。銅メダルは世界選手権2大会連続銅メダルで、リオパラリンピック銅メダルコンビの、Susanne Jensby Sunesen&CSK’s Que Faire(20歳 /牝 / DWB)だった。

グレードIIで番狂わせ、リオ・パラ金メダリスト、Lee Pearson&Stylettaが棄権

第2競技はグレードIIで9人馬が参加。
日本からは、吉越奏詞&Brown Sugar(12歳/牝/OLDBG)が参戦。吉越選手は脳性麻痺のため障害を生まれ持つが、幼少のころよりホースセラピーに取り組み、馬に親しんできた。本競技は3番手に登場、経路途中の停止でややブレがあったものの、後半は速歩項目で7点台がつくなど善戦。61.088 %を記録した。
さて、パラ馬術では個人競技の上位8人馬が、音楽にあわせて演技をするフリースタイルに進出する。9人馬いるこのクラスでは1人馬がその権利を得ることができない。3番手の吉越選手はその後の選手の結果を見守る形となった。

そして、波乱がおきたのはその2人馬後。5番手に出場したのは、来日経験もある世界チャンピオンでリオ・パラリンピック金メダリスト、Lee Pearson選手。今回はコンビを組んで比較的経験の浅いStyletta(9歳/牝)に騎乗。期待が集まる中、演技が開始。数分後、蹄跡に向かったところでStylettaが何かに驚いてバタついた。Lee選手はその場で落ち着かせ演技を継続したが、斜めに手前を変えている途中で今度はStylettaが頭を宙にあげて抵抗。この時点でLee選手は継続を断念し、棄権した。FEI.TV解説者を務めていた同じイギリスのSophie Wells選手によると、Lee選手は次のようにコメントしている。「今日は何かがおかしかった。申し訳ない。この結果には僕も大変がっかりしている。何が原因だったかを見つけなければいけない」。また、Sophie選手は、前日の練習では違った頭らく(練習では大勒、競技では水勒)を使用していたことや、Lee選手本人が体調不良から回復してきたばかりだということなども付け加えていた。

この時点で1人馬が棄権したため、吉越選手のフリースタイル出場が決定した。

このクラスで優勝したのは、デンマークの若手成長株、Stinna Tange Kaastrup&Horsebo Smarties(17歳/セン/ DWB)。Stinnaはリオ・パラリンピックの銅メダリスト。このコンビは経験が豊富で安定したスタート。しかし、はじまってまもなく間違った項目を演技してしまう経路違反。経路違反は総合得点から1回につき、5人すべてのジャッジそれぞれの合計点より減点されるため影響は大きい。緊張が高まる中、Stinnaは冷静を取り戻し、ほぼすべての項目に7点から8点がつく演技を見せて72.735 %を獲得した。

銀メダルを獲得したのはリオ・パラリンピック金メダリスト、Pepo Puch(オーストリア)。今回は新たな馬Sailor’s Blue(10歳 / セン / HANN)とコンビを組んでの登場。Stinnaの後 の演技で、はたしてどちらが優勝するかと注目の集まる中、安定した演技を継続。最終的には72.676 %と、わずかにとどかず2位に終わった。
「馬の調子が素晴らしくて本当によく頑張っていたので間違えた時にはがっかりしました。でも、最後はそれでも得点が足りたので関係なかったというかんじです。スコアを見ていてあまりにも接戦だったので緊張していて、最後まで勝てるかどうか不安でした。最後はわずか0.1%差、Pepo選手も素晴らしい演技でしたが、今私はとても嬉しいです」(Stinna選手競技後コメント)

「この時点では得点はまだわかりませんが、トップライダーが集まっているので本当に厳しい競技だったと思います。出場人馬の数こそ多くはありませんが質の高い演技をする人馬ばかりなのでその中でこの若い馬はよくがんばってくれたと思います。特にこのようなチャンピオンシップの不慣れな環境のなかでは上出来です。チーム戦には参加しないので少し休んでフリースタイルに挑みます。その時はもちろん金メダルを狙っていきます」(Pepo選手競技後コメント)
なお、銅メダルはリオ・パラリンピック4位のNicole den Dulk&Wallace N.O.P. (オランダ)だった。

グレードVで、イギリスのSophie Wells&C Fatal Attractionが金メダル

18日最後の競技はグレードVで8人馬が参加。(8人馬のため、全人馬がフリースタイルに進出)

日本からは中村公子&Djazz F(10歳/セン/KWPN)が参戦。中村選手は全日本レベルの馬場馬術競技やアジア大会、CDIなどの国際馬術大会出場経験者。2016年に事故にあい骨折。その結果障害が残り、グレードV認定。パラ馬術競技に参戦し始めた。
今日の競技では途中常歩ピルエットで10点中4点の評価が付いた以外はほぼすべてが安定した演技。中には8点台の高評価もつく項目もあった。結果、オランダの審判のスコアだけみれば2位で72.738 %、5審判すべてを総合した結果68.738 %で5位に終わった。

金メダルを獲得したのは、現在世界ランキング1位、イギリスのSophie Wells&C Fatal Attraction(11歳/セン/ KWPN)(75.429 %)。 この馬とはリオ以降からコンビを組んでいて、ヨーロッパ選手権にも出場。
「嬉しい結果です。最初ちょっと緊張してしまったところがありましたが、ヨーロッパ選手権で個人競技が同じく最初だったときと比べればずいぶんとよかったと思います。ちょっと緊張したけれど、徐々に集中して私の合図に反応して、自信を取り戻して初日にいい結果が出せました。残りの競技もうまくいくといいなと思っています。トライオンの環境はよくて、イギリスチームの一員でこられたことを誇りに思います。先週馬場馬術や総合馬術の選手が素晴らしい結果を残しているのをみて、モチベーションがわきました。私も同じように、良い結果が残せたらなと」(Sophie選手競技後コメント)

銀メダルは、リオ・パラリンピック銅メダリストでオランダのFrank Hosmar&Alphaville N.O.P.(13歳 / セン / KWPN)(73.167 %)。
「とても嬉しいです。気持ちのいい演技でした。残念だったのは途中少し脚と馬の口とのつながりが崩れてしまったところがあったことですが、馬はがんばってくれて、大きな間違いはなかったと思います。騎乗していていい感じでした。ここ数日はすごく元気がよくてエネルギーがたまっていたので乗りづらかったのですが、今日は準備馬場から落ち着いていたのでうまくいきました。ここにこれてよかったです。チャンピオンシップはみな同じような馬場で同じようなコースと審判ですが、もちろんここにこれたことは嬉しいかぎりです。今年はこの競技に向けて頑張ってきました。この後はヨーロッパ選手権に直行し、そのあとは東京パラリンピックに参戦という予定です」(Frank選手競技後コメント)

銅メダルはドイツの新星、Regine Mispelkamp&Look At Me Now(13歳/ セン / RHEIN)(71.452%)。パラ馬術こそ2018年に国際戦デビューをしているが、幼少のころより馬に親しみ、障害飛越等の馬術競技に出場していた経験をもつ期待の選手。

2日目はグレード3と1の個人競技が行われ、日本からはグレード3、8番目に稲葉将&Femme Fatale(8歳/ 牝 / KWPN)が出場する。
結果速報はこちらのサイトの各競技右、リボンのマークをクリック。
https://tryon2018.com/officialresults

(各選手ジャッジペーパー詳細は画面一番右のTOTAL欄、DETAILSをクリック)
パラ・ドレッサージュ グレードIV (個人演技)https://tryon2018.com/eventResults/2018/1587/resultlist_PI-IV
パラ・ドレッサージュ グレードII (個人演技)https://tryon2018.com/eventResults/2018/1587/resultlist_PI-II
パラ・ドレッサージュ グレードV (個人演技)https://tryon2018.com/eventResults/2018/1587/resultlist_PI-V

取材協力:
Hope Hand, United States Para-Equestrian Association http://uspea.org/
Betty Cooper, Photographer https://www.betty-cooper.com/
Tryon 2018 World Equestrian Games Media Center Team

参考:
https://tryon2018.com
https://www.paralympic.org/news/olympic-ambition-paralympic-equestrian-rider
https://history.fei.org/node/153
https://www.fei.org/events/rio-2016-paralympics
https://inside.fei.org/sites/default/files/PED%202018_rules%20Final_clean_.pdf
http://www.dream-teamtonko.com/index.html
https://www.mispelkamp.com/bio.html

次のページに、フォトギャラリー

(編集・校正 望月芳子)

1 2

この記事にコメントする

記事の訂正はこちら(メールソフトが開きます)