(English Translation Follows on P.3)
清々しいラスト・ジャンプであった。
8月20日から26日まで、ドイツ・ベルリンで開催されたパラ陸上欧州選手権。2日目の21日に開催された男子走り幅跳び(T63/大腿義足使用など)に、この日が現役引退試合となるハインリッヒ・ポポフ(ドイツ)が出場。ライバルでもあるダニエル・ワーグナー・ヨルゲンセン(デンマーク)に敗れ2位に終わったが、地元ドイツで祝福に包まれながら花道を飾った。
引退試合での“スリーショット”
7月8日のジャパンパラ陸上競技大会(於・正田醤油スタジアム群馬)で来日したポポフは、2016年のリオ・パラリンピックでもしのぎを削った山本篤(新日本住設/同大会銀メダル)、ヨルゲンセン(同銅メダル)と共に“最後から2番目”の試合に臨んだ。山本がヨーロッパ選手権には出場しないことから、ジャパンパラでの3人の争いは、“最後の三つ巴”でもあった(ジャパンパラ陸上2018ルポ)。
欧州選手権当日。ベルリン、フリードリッヒ・ヤーン・シュポルトパーク。スタンドにはポポフのポートレート入りの大きなシートが張られ、ドイツ代表チームの関係者によって、「Jump Heinrich, jump!」と書かれた横断幕が掲げられた。スタジアムMCによる音頭で、スタンドからは手拍子が贈られ、暖かい雰囲気で試技は進行した。
他方で、ピット上の選手にとっては、ヨーロッパの頂点を決める大一番である。ポポフは、6回行う試技の内、1回目、2回目とファウル。対するヨルゲンセンは、1回目から大会記録となる6m49をマーク。3回目には6m72まで伸ばした。
途中、イギリスのシノット・ルークの義足が踏切時の衝撃で破損するアクシデントが発生。すぐさまドイツの福祉機器メーカー『ottobock』のスタッフが修繕にあたった。ルークと同じ『OSSUR』製の義足を使うヨルゲンセンも自分のスペア義足を持ち寄り、義肢装具士のライセンスを保有するポポフもサポートに駆け寄った。ルークはその後試技に復帰し、5回目の試技でベスト記録(5m54)をマークした。
ポポフは、3回目にマークした6m24がこの日のベスト記録。ジャパンパラでの6m21からは記録を伸ばすシーズンベストではあったが、悔しげな表情で、後半の跳躍直後には声を荒げるシーンもあった。とはいえ、最終跳躍を終えると、スタンドからの祝福に笑顔で応えた。
スタンドには、ポポフのラストジャンプ観戦に訪れた山本の姿があった。6月末に脱臼した左肩の手術を7月下旬に行い、腕を釣っている状態であったが、花束を持ちポポフの引退を見届けた。全選手の試技が終了すると、ポポフがスタンドにいる山本をフィールドまで呼び寄せた。
「日本から僕の最後のジャンプを観に来てくれるなんて、アツシはクレイジーだ(笑)。来てくれて有難うと伝えたよ。『もし痛くなかったら、肩を持ってほしい。一緒に写真を撮ろう』と頼んだ。ダニエル(ヨルゲンセン)は本当に良いジャンプをした。これからもアツシとダニエルは競い合って行くだろう。アツシはこれからトレーニングを沢山積むと思うから、次の試合でダニエルが勝つことは簡単ではないだろうね」(ポポフ)
競技での“三つ巴”は日本が最後だったが、ベルリンでの“スリーショット”である。
ポポフはまた、こうも話した。
「多くの人が競技場に来て、私をサポートしてくれた。この大会が最後だということを寂しくも思うよ。感情が高ぶって競技に集中するのが難しかった」
――あなたは皆から愛されていますね。
そう聞くと、ポポフは照れ笑いを浮かべながら言った。
「自分をサポートしてくれる人々は、パラスポーツの為に全力で仕事をしている。だから互いに理解し、情熱を持って接することができる。また、僕は両親にこう言われてきた。『常に人々の為に良い行いをしなさい』と。そう努めてきたから、これまで多くの助けを得ることができたと思っているよ」
→次のページでポポフの考えるパラスポーツの意義とは