関連カテゴリ: ジャパンパラ, デフスポーツ, トラック・フィールド, 取材者の視点, 地域, 陸上 — 公開: 2018年7月12日 at 5:06 PM — 更新: 2021年5月29日 at 10:42 PM

デフ・アスリート岡部祐介、2年ぶりにジャパンパラで疾走!シーズン前半を終え、8月には新たな試みも

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ジャパンパラ陸上男子400m(T70)で優勝した岡部祐介 筆者撮影
ジャパンパラ陸上男子400m(T70)で優勝した岡部祐介 筆者撮影

「久しぶりの“優勝”です」

7月7日、8日に開催された『ジャパンパラ陸上競技大会』(於:正田醤油スタジアム群馬)。男子T70クラス400mに出場し、51秒17で優勝した岡部祐介(ワールウインドAC/T70/聴覚障がいクラス)は笑顔を見せた。今回のジャパンパラ陸上では、聴覚障がいを持つ選手の種目も実施されていた。

長内智(パンチ工業)との競り合いとなった岡部は、ホームストレートで差を広げ、0.6秒先着しての勝利であった。

「自己記録(50秒39)を更新できなかったので悔しいですが、しっかりまとめられました。50秒台、51秒台からなかなか抜け出せませんが、シーズン後半では49秒台を狙っていきたいですね」(岡部)

“聞こえ”の程度が120デシベル程度。「飛行機の音がやっと聞こえるかなというぐらい。補聴器を外すと凄く静かな世界です」という岡部は、普段は手話で話すが、手話の使えない筆者に対して、今回の取材時は“筆談ボード”を使用して応じてくれた。

 ジャパンパラでの岡部祐介 筆者撮影
ジャパンパラでの岡部祐介 筆者撮影

国際クラス分けの影響で60から70へ

パラ陸上競技には、障害の部位や程度に応じて国際クラス分けが適用されており、T(トラック競技)、F(フィールド競技)と、数字の組み合わせで表現されている。例えば「視覚障がい(11〜13)」、「知的障がい(20)」といった具合だ。今年から一部のカテゴリで国際クラス分けの変更が適用され、T/F61〜64が義足使用者のクラスとなった。ジャパンパラ陸上では、昨年まで聴覚障がいのクラスを「T60/F60」と表記して競技が行われていたが、上述のクラス変更の影響を受け、今年から、「T70/F70」と表記されている。

T70/F70の選手は、身体的に聴覚に障害を持っているとはいえ、手足(もしくは上半身/下半身)にハンディの無い選手が多いため、健常の選手と同等か、それ以上のパフォーマンスを発揮する場合も少なくない。
6月下旬に開催された国内最高峰の陸上大会である『日本陸上競技選手権』では、男子円盤投げに出場した湯上剛輝(トヨタ自動車)が、日本新記録(62メートル16)で優勝したことも記憶に新しい。岡部も「デフアスリートの誇りです」と顔をほころばせる。

昨年度は、トルコで第23回夏季デフリンピックが開催され、岡部も日本代表として出場し、1600メートルリレー5位入賞など実績を残した。同大会開催の影響もあり、9月に福島県で行われたジャパンパラ陸上に出場した聴覚障がいの選手は1名(走り幅跳び/鈴木一真選手)だけであったが、今回のジャパンパラ陸上には、トラック種目、フィールド種目合わせて男女計16名の選手が出場した。

将来のデフ・アスリートのためにできること

岡部を始めとして、トラック競技にあたるT70クラスの選手たちは、スタート時の出発音が聞こえない(聞こえづらい)ことから、遅れることなくスムーズにスタートを切るために『スタートランプ』と呼ばれる発光してスタートを知らせる装置を用いる(関連記事:http://www.paraphoto.org/?p=16836)。

スタートランプは、一般的なスターティング機器に連動するような仕組みとなっており、スタート前には、『日本聴覚障害者陸上競技協会』から派遣されたスタッフを中心に、設置作業と動作確認が素早く行われる。今大会のT70クラスの種目でも同様の光景が見られた。

今回の400メートル走における岡部のリアクションタイム(スタートの反応速度)は0.179秒。例えば、上述の日本陸上競技選手権における同種目決勝のリアクションタイムが0.138秒〜0.197秒。健常の選手のみで行われた同レースのリアクションタイムから大きく遅れていないことからも分かるように、スタートランプによってスムーズな出発ができていることが伺える。

スタートランプ作動の様子 筆者撮影
スタートランプ作動の様子 筆者撮影

岡部には一つの目標がある。

聴覚障害を持つ人が、子供の頃からスタートランプを使える環境を整えることだ。現在、スタートランプは、聴覚障害者の大会以外では、ごく一部の健常者の大会で使用されているが、一般的に普及しているとは言えない状況である。

陸上競技のみならず、徒競走においても、スタート音が聞こえない為に、健聴者と同じ土俵に立てず、早い段階でスポーツに対してネガティブな印象を抱いてしまう人も少なくないという。無論、機器の手配にかかる手続きや費用等といった事情が絡んでいるにせよ、岡部は、そういった状況を改善できないかと考えている。

その一環として、岡部は8月18日(土)に、東京・豊洲にあるランニングスタジアムにて、スタートランプを用いた子供向けの陸上競技教室を開く予定だ。

「今回、初めてスタートランプを使った教室になるので楽しみです。子供の時からスタートランプが普通に使える環境が整えば良いな、と思っています。最初からスタートランプで練習をすれば、オリンピックに出場できる選手も出てくるかもしれません。将来のデフ・アスリートのために、スタートランプを使って陸上ができる環境が増えてほしいですね」

そう話し、岡部は2年ぶりのジャパンパラの会場を後にした。

男子400m(T70)表彰式にて。日本パラ陸連新会長に就任したスポーツジャーナリストの増田明美氏と 筆者撮影 
男子400m(T70)表彰式にて。日本パラ陸連新会長に就任したスポーツジャーナリストの増田明美氏と 筆者撮影

(校正・佐々木延江)

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