「2018ジャパンパラ・ウィルチェアーラグビー競技大会」の決勝、日本対イギリス戦。
決勝というだけあって、両チームの士気は頂点に達し、激しいゲームが展開が続いた。
ブロックで車いす同士がぶつかり合う鈍い金属音が何度も会場に響いた。時には車いすごと転倒する選手や、タイヤがパンクし、交換を余儀なくされる場面もしばしば起きた。
スピーディ、かつ一進一退の試合展開に、自分が握るこぶしにも気づくと力がこもっていた。
そんな激しい試合の中でも、最も激しく、そして、縦横無尽にコートを走り回っていたのは、熊本出身の28歳、乗松聖矢(1.5 Fukuoka Dandelion/22番)だ。
コートの端から端へ、絶えず相手のブロックに動き、的確にイギリス選手たちの行く手を阻む。
ボールが飛んでいる方向の裏では、絶えず、ブロックへと走る乗松の懸命な姿が印象的だった。
乗松は、ウィルチェアーラグビーのクラス分けで障害の重い「ローポインタ―」であり、主に相手チームの障害の軽い「ハイポインター」の動きを抑え込む役割に回ることが多い。
この競技では、障害の度合いによってポイントがつけられており、数字が少ないほど障害は重い。試合はフィールドに出場する選手4人の合計ポイントが8.0まででチームを組み立てなければならないルールだ。
乗松は1.5であり、3.0や3.5といったハイポインターに比べると身体能力に差がある。
ウィルチェアーラグビーといえば、ゴールやロングパスなど派手な動きをするハイポインターのプレーに目を奪われるファンが多いかもしれない。一般的にはハイポインターをトライの前面に出し、乗松らローポインターの選手はブロック、ディフェンスを主とする。激しいタックルの衝撃にも耐えられるよう、車いすの下端のバンパーが大きく張り出していた。
この試合でも乗松はローポインターとして最高のパフォーマンスを発揮していたが、印象的な出来事が起こった。
第2ピリオド、イギリス選手の隙をついて鋭いロングパスがコート前方へ出された。
その先に走りこんできたのは乗松だ。
乗松はパスを受け取ると、見事トライを決めた!
コート上をボールと乗松が綺麗なラインを描いた、鮮やかなトライであった。
乗松はこの時のことを振り返って
「誰でもチャンスがあれば、みんなで走って点を取りに行く意識が生まれていた。スペースが見えたので、ここで自分が出るしかないと思った。自分もオフェンス面でもチームに貢献することができて嬉しい」と語った。
ローポインター、ハイポインターという枠にとらわれず、ゲームメイクをしていこうというチーム全体の意識がうまく結びついた一場面だった。
そしてチームの意識は、ローポインターである乗松のプレースタイルにも大きな変化をもたらしたといえるかもしれない。
「オフェンスのスペースをつぶしてしまうような動きをしてしまった点があったので、改善しなければ」と、乗松。真摯な表情で語りつつも、その意識はやはり大きくオフェンスの可能性を見すえていたように思われる。
また、来月に行われるカナダカップに向けて「自分たちがやってきたことを一人一人が発揮できれば、負けることはないので、自分も含めて一人一人が最大のパフォーマンスを発揮できるようにしていきたい。試合中は誰でも弱気になることもあると思うが、チームでお互いを支えあって闘っていきたい」と、誰よりもその場の状況をよく見、支えてきた、乗松らしい展望を語ってくれたように思われた。
6月14日から行われる、「カナダカップ2018」での乗松の活躍に注目したい。
(校正・佐々木延江)
この取材はニコンイメージングジャパンによる撮影機材協力により行われています。