5月12日(土)「ITU世界パラトライアスロンシリーズ横浜大会」は6時55分に横浜山下公園でレースがスタート。世界から70名の障害のある選手がエリートパラトライアスロン(スプリント25.25km/スイム750m出場した、バイク20km、ラン5km)に出場した。
今シーズンは横浜大会がワールドパラトライアスロンシリーズの初戦となっており、主催者たちは2020東京へのテストになる大会として意気込みつつ開幕した。
週末にかけて徐々に回復した横浜の天気。朝5時台の水温が17.8度とやや冷たいようだったが、時間が経つにつれて徐々に気温があがり、レースは初夏の暑さのあるコンディションで開催された。
全クラスを通じて1時間を切るトップタイムでフィニッシュしたのは、男子PTWC、リオパラリンピック・トライアスロン(PT1)で優勝し、ハンドサイクル(Road Race H5)でも銅メダルを獲得した、イェツェ・プラット(PTWC・オランダ)だった。昨年優勝のヘールト・スキパー(オランダ)を制したプラットは、スイムで9分37秒で1位、バイクは29秒台をマークし、トランジッションも含めた合計タイムは56分21秒だった。
日本の木村潤平(PTWC・社会福祉法人ひまわり福祉会)は出場7選手中5位だった。木村はバイクトレーニングがしやすい沖縄を拠点にしてきた。6月にはパラサイクリングの大会にも出場し、今後もバイクをメインにしたトレーニングに力を入れていく予定。
「今回の目標は、このメンバーで5位内に入ることだった。今の実力ではベストな試合ができたと思う。オランダの2人はバイクが早い。自分もバイクに重点をおいたトレーニングをして行きます。メダルを目標にしている。課題はまだいっぱいあるが、日々少しずつ変えて行く」と話していた。
土田和歌子、低温スイムの恐怖乗り越え2連覇!
トライアスロンを始めて2シーズン目、(車椅子陸上からトライアスロンへ)正式に競技転向して初めてになる座位の土田和歌子(PTWC・八千代工業)は、課題のスイムに練習を絞った。スイム16分41秒(7人中6位)で終えたあと、バイク、ランで確実に巻き返し2連覇を果たした。
「水温16度から17度を想定した冷たい水への対策はしていましたが、15度と聞いて恐かった。シーズンインの大事なレースで結果を残せてよかった。でもまだまだ。まだまだだからこそしっかり取り組んでいきたい」
車椅子のクラスは体感温度が少なく、心拍への負担や過呼吸の恐れがあり命に関わる。アスリートとしてベテランの土田にとっても恐怖との戦いだったという。
女子PTS4・谷真海、WTS出場レース全てで負けなし
「花も緑も綺麗で、去年の倍くらい観戦が増えた気がする。2020東京もこんな感じになるのか?と思い、ワクワクした。出たいと思った。いたるところで、マミマミ言ってもらえて、サボれない状況で、とても助かりました」と、谷真海(PTS4・サントリー)。
2012年の横浜大会からトライアスロンに出場。パラ陸上(走り幅跳び)から転向し、本格的にトライアスロンを始めてからは2シーズン目に入る。昨年は2名、今年は3名の出場でクラス出場者数が少ないが、海外遠征も含め、優勝し続けている。今大会でスイムは16分台を目標にしていたという谷だが、12分23秒という好タイムで上がることができた。
「朝にしては予想以上に眩しく、太陽をふせぐ準備ができなかった。フィニッシュ付近では全身がしびれていましたが、ライバルのサリー・ピルビームのレベルも上がっていて、サリーが後ろからくるのが見えていたので、とにかく守りに入らない走りを続けました」とレースをふり返った。
男子PTS4は、イギリスの23歳ジョージ・ピースグッドがスイムを9分台で泳ぎ合計1時間12秒の好タイムで優勝。
日本の佐藤圭一(エイベックス)は、スイム13分6(3位)、バイク29分27(1位)と良いペースで先行した。ランで順位を下げ5位となった。佐藤は夏・冬のパラリンピック日本代表であり、4月に入ってからトライアスロンのトレーニングに入った。
「(最後のランで)ジョージとの差を詰めることができなかった。バイク終わって、この差だと詰められるのは分かっていた。疲れとリズムがうまく取れなくて、すぐに抜かれてしまう、その辺が悔やまれます。
出来としては、これまでの横浜のタイムのベスト。スキーとトライアスロンの両立で、シーズン初戦ですし、今日の出来としては、上出来に思います」と、佐藤は話していた。
PTS2女子は、女王アリサ・シーリーが横浜大会3連覇!
より過酷な挑戦に価値をおくトライアスロンの見どころと言えるのが、大腿切断などで義足やクラッチを使う、立位クラスの中で重い障害のPTS2。
ランを得意とし、リオパラリンピック金メダリストで、陸上200m(T42・6位)にも出場した、アリサ・シーリー(アメリカ)が、横浜大会3連覇を果たし、圧倒的な強さを見せている。
スイムについては日本の秦由加子(マーズフラッグ・稲毛インター/千葉)が他の選手を寄せ付けない強さを見せ続けているが、バイク、そして得意のランで、今年も他を圧倒する走りを見せてくれた。
男子についてもアメリカのマーク・バーが9分台でスイムを終え、その勢いのまま勝利した。アメリカはトライアスロンで圧倒的な強さを見せている。
男子視覚障害水泳の王者がトライアスロンに転身?!
ブラインド・スイマー、日本の木村敬一のライバルとして知る人もいるだろうブラッド・スナイダー(PTVI/B1)は、トライアスロンで2度目のレースを完走、結果は5位だった。初めてコンビを組むガイドと共に、専門のスイムではトップチームより遅れ11分35秒(2位)のスイムアップ、バイクは31分6秒(8位)、ランは20分19秒(5位)と伸びしろの大きさを感じさせるタイムだった。
優勝は連覇となったイギリスのデイブ・エリス(B3)で、1時間57秒の好タイムだった。
女子視覚障害はスペインのロドリゲスが連覇!
視覚障害女子は、横浜大会に何度も出場、連覇となるスサーナ・ロドリゲス(スペイン)だ。
日本の円尾敦子(アルケア・グンゼスポーツ)は5選手中4位だった。武友麻衣ガイドは長く円尾のパートナーを務める。「暑いレースだったけれど、円尾選手はまだまだまだ力を出せるだろう」とシーズンの初めのレースを終えて話していた。
立位の中で、下腿義足や上腕に重い障害のあるPTS4では、フランスのアレクシ・アンカンコンが1時間57秒の好タイムで優勝。
日本の宇田秀生(滋賀県トライアスロン協会)は1時間5分18秒で8人中6位だった。
また、今回はアジア勢が増え、キルギスタンから初めてヌルベク・トイチュバエフが出場した。
医療関係の仕事をしながら、2020東京を目指し取り組んでいる。競技にかかる費用など自己負担しなければならないが「情熱」が唯一の原動力となっていると話していた。
<記事協力:潮田耕一、そうとめよしえ、久下真以子>
<参考>
横浜トライアスロン公式サイト/パラエリート・リザルト
http://www.jtu.or.jp/results/2018/2018yokohama_para_result.pdf
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