銀メダリストのベテランは悔しそうだった。
平昌パラリンピックは3月14日、クロスカントリースキー・スプリントクラシカルが行われ、立位で新田佳浩(日立ソリューションズ)が銀メダルを獲得した。
開口一番、出てきた言葉は「悔しいです」
「狙える種目でもありましたし、やはり金じゃないとダメかなと。銀でホッとした部分もありますが、思い描いていたのは金メダルだった」
予選を2位、準決勝を1位で通過したが、思わぬ相手が立ちはだかった。Alexandr KOLYADIN(カザフスタン)。12日に行われた20kmフリーでは最下位に終わっていたが、予選1位、準決勝も新田と別組で1位通過し、スプリントの強さを見せ、不気味な存在感を放っていた。
準決勝直後の新田の言葉だ。
「カザフスタンの選手はマークしていませんでしたが、しっかりここ(パラリンピック)に合わせてきたと思う。鍵は登り後の平地」
コース中盤を勝負の鍵と見ていた。また、日本代表に帯同するウェザーニュースのスタッフから気温上昇の予報を得て、ワックスにも一工夫。ベースワックスを前日に一晩冷やしてから使用。滑ると剥がれていくワックスが、これで剥がれにくくなる。板も予選、準決勝と別のものを用意し、感触の良かった方を決勝で使用した。天候情報とワックスマンの双方から万全のサポートを受け、満を持して挑んでいた。
決勝。先頭争いを繰り広げながら高速ピッチの交互滑走(ダイアゴナル)と推進滑走を繰り返す。
「ポールを使いながらと、ピッチを上げながらという走法は作戦でした」と振り返る。しかし、勝負どころは中盤とはならなかった。平地を過ぎ、下り終えた後の最後の直線でもう一勝負あった。同カテゴリのライバルIlkka TUOMISTO(フィンランド)に並びかけるが、僅かに先行されてカッター(溝)に先に入られてしまう。その為、やや左にそれて、新田は隣のカッターに入った。
「カッターの中を走るか外を走るかという選択は迷ったんですが、中なら、多少板が滑らなくても行けるかなという思いがあったので、最後は中を選びました」とはレース後の新田の話だ。
しかし、カッター内で猛然とスパートする新田の左から、大柄な選手が推進滑走ですり抜けていく。最後の直線に入るまでは4番手につけていたAlexandr KOLYADINであった。「後ろで声とストックの音は聞こえていたので『あっ!』と言う感じ」。2位でゴールした新田は倒れ込んだ。
「なんで(金を)取れなかったんだと、ちょっと涙してしまいました」
悔しさを露わにするが、手応えはあった。今回同タイムで銅メダルを分け合ったIlkka TUOMISTOとMark ARENDZ(カナダ)の二人には、昨年のW杯スプリント・フィンランド大会で競り負けていたが、今回は逆の結果となった。
「37歳にしてまだ成長していると思います。もうやりたくないような練習が結果につながった。抜かれかけても巻き返したのは大きな収穫。金メダルではなかったですけど、成果はあったかなと」
家族も声援を送った。新田は「長男は予選からテンションが高くて」と笑いながら「頑張った姿を見せることはできた。競技を通してしか伝えられないことを子どもが感じていたらいいかなと思います」と話した。
今大会、クロスカントリー・バイアスロンチームは壁に直面している。今レースでも、予選を突破したのは新田と川除大輝(日立ソリューションズJSC)のみだった。
「流れを変えたかった」
チームの不振に、37歳が奮起した。
「クロスカントリーは一人で出来るスポーツではない」と新田は話す。
「ワックスマンなどのスタッフも含めて色々な人の思いを繋ぐ為にも、この苦しくて難しい競技を楽しむことが、一番の近道だと僕は信じています」
17日には10kmクラシカルが控えている。目の前でさらわれた金メダルを、今度こそ取りに行く。
(校正・佐々木延江)