2月2日から4日にかけて、菅平高原パインビークスキー場(長野県)にて「2018ジャパンパラアルペンスキー競技大会」が開催された。
平昌パラリンピック前最後の国内レースということもあり多くの報道陣が詰めかけた。平昌に似た気候条件を持つ同会場。競技は3日に大回転、4日に回転が行われ、各選手が自身の滑走や、マテリアルのセッティングを確かめながらのレースとなった。
大回転で三澤が上々の復帰レース。森井は転倒も前向き
3日のハイライトは、男子立位の三澤拓(SMBC日興証券・LW2)の怪我からの復帰。ともにパラリンピックを戦った小池岳太(JTBコミュニケーションズ・LW6/8-2)との接戦を制した。
昨年12月のW杯オーストリア大会で転倒し左脚を負傷。練習を休んでいたが、帰国後の1月中旬からフィジカル・トレーニングを実施し、1月下旬には怪我前と同様のフィジカルメニューをこなせていた。
「焦りがあると思っていたら、レース中も冷静にゲートが見えて、滑りをコントロールできた。日本代表の条件はクリアした」と自身も想定以上の滑走を見せ、1次発表で漏れた平昌の代表入りに向けアピールした。
昨季のW杯平昌大会(プレ大会)では、技術系(大回転、回転)、高速系(滑降、スーパー大回転)でいずれも6〜7位と安定した成績を残しており、良いイメージを持っているという。
「今季は高速系は天候不良でほぼキャンセルになっており、各国選手も条件は変わらない。パラリンピックとW杯は雰囲気も違うので、不安はないです。滑りというよりフィジカルを強化して臨みたい」と、平昌へ向けて意気込みを語った。
志渡一志日本代表ヘッドコーチは「想像以上に良い滑りをしてくれた。他のメンバーと同じスタートラインにようやく立った」と評価した。
男子座位では、バンクーバー、ソチと高速系で金メダルを獲得している狩野亮(マルハン・LW11)が優勝。
1本目トップだった森井大輝(トヨタ自動車・LW11)が2本目に転倒で途中棄権したことを受け狩野は「大輝さんはGS(大回転)でトップだと思っているので、そこに食らいつけるかが今日のテーマでした。なので(順位に関して)大きな受け止め方はしていません」と話した。
1月後半は天候の影響で雪上にあがることができなかった。「(チェアスキーの)サスペンションとカウルのテストを淡々とこなしたかったので、それが進められなかったのはちょっともどかしい」としつつも「年末に北海道である程度の触りはつけられました。何パターンかセッティングの候補があるので、それを次のレースでテストしたい」と、今週からカナダのキンバリーで開催されるW杯最終戦に向け意欲を見せた。
平昌へ向けては「(コースの)危険度は少ないですが、ウェーブや、片斜面でターンが苦しくなる箇所がありました。そのためにカービング技術を上げてきたし、起伏で遅れた時にもすぐリカバリーできるイメージは持っています。難易度が高くないコースだからこその難しさもあると思う」と気を引き締めた。
途中棄権に終わった森井は、ゲートにアウトリガーを引っ掛けての転倒だったが、気持ちは前向きだ。
「急斜面で膨らまずにタイトに滑ることを意識した結果、攻めすぎてアダになってしまいました。逆に言えば、膨らむ、攻めるといったコントロールが自在にできているということ。成績自体は反省しないといけませんが、パラリンピック前に痛い目にあっておけば本番は良くなるのかな」と話した。
女子座位で優勝した村岡桃佳(早稲田大・LW10-2)も、今季の高速系のレース不足にやや不安を感じていた。速度に対する慣れが足りないということだ。
「滑降だと一気にスピードが上がるので、経験しておくとスーパー大回転や大回転という種目でも怖さが半減する部分もあります。今季はそれが全くない状況なので、技術系の種目でもちょっと怖いなと思ってしまう時がある。そういう事も含めて、高速系は早く滑りたいです」
キンバリーのW杯では滑降とスーパー大回転が実施される予定。村岡の他、出場する森井、狩野にとっても貴重な機会となる。
マテリアル、コースのセッティングで収穫の菅平
2日目(4日)の回転で、森井が圧巻の滑りを見せた。途中棄権となった前日の大回転の後「明日(回転)はチェアスキーの新しいセッティングで臨む」と宣言していたが、それが現実化した格好だ。1本目では他選手が50秒台前半で滑る中、ただ一人46秒台をマークし、2本目もさらにタイムを縮めた。
「平昌では今回と異なるセッティングで行こうと思っていました。言うなれば諦めていたセッティング。それをこの場で実践してみたのですが、自分が思った以上のタイムが出た。今はセッティングを考えてくれるメカニックと戦いをしているような感覚。今回は僕の負けなので悔しさもありますが、メカニックは流石だなと思います」とチェアスキーのチューニングに自信を覗かせた。
「急斜面でのターンの安定性が向上していて、1回のターンごとにポールに接近することができています。その結果ワンターンごとのタイムが短縮されれば、(50ターン以上ある回転では)飛躍的にタイムを伸ばすことができる。回転では気持ちよく滑ることができたので、平昌へ向けては良い傾向。カナダから帰国後はまた菅平で合宿なので、基本に立ち返って身体の動きを確認したいです」と話した。
技術系種目で構成された2日間のジャパンパラを終えて、志度ヘッドコーチはこう話す。
「本当は1月のレースで連戦して選手たちは疲れてるはずでしたが、不幸中の幸いというか、(レースが)キャンセルになったので思いのほか疲労もなく、コンディションは悪くないと思います。レースをこなして仕上げるタイプの選手もいるので、実戦を積めていないという不安がないわけではありませんが、それは他の国の選手も同じ条件。本番までにどれだけ仕上げられるかだと思います」
今大会は“仮想平昌”としてコースをセッティングした。5日から始まる同地での合宿では、特に経験が不足している高速系種目も含めてのトレーニングを実施する予定。
「スーパー大回転のコースのうねり、急斜面への入り方、急斜面を抜けた箇所など、菅平では(平昌と)同じようなセッティングが可能。雪質も近いので、滑り込めれば十分準備はできると思います。合宿の課題は追い込むこと。本番で攻めるために練習で多少のリスクを取る。怪我に気をつける必要もあって、その点矛盾しますが、そこのせめぎあいだと思います」(志度ヘッドコーチ)
森井は言う。
「パラリンピックイヤーになったときの海外選手のギアの上げ方が本当に凄くて驚きます。そこに対して負けないようにしていかないといけない。やるべきことをやっていけば、結果は出せます」
アルペンチームは5日から菅平合宿組とキンバリー遠征組に分かれる。19日から再び合流し、再度、菅平で合宿を組む予定だ。いよいよ1ヶ月後に迫る平昌パラリンピック。実戦経験の不足というイレギュラーを限られた時間で埋め、結果へと昇華させることができるか。目標は「金メダルと複数の表彰台」(志度ヘッドコーチ)だ。
【主な大会結果】
◆大回転(1日目・2月3日)
女子
◼立位
①本堂杏美 ★
②神山則子
③島崎穂咲
◼座位
①村岡桃佳 ★
②原田紀香
◼知的障害
①弓削まり子
②梅澤知代
◼聴覚障害
①小林育美
男子
◼立位
①三澤 拓
②小池岳太
③菅 貢
◼座位
①狩野 亮 ★
②夏目堅司
③鈴木猛史 ★
◼知的障害
①木村嘉秀
②宮本涼平
③木附雄祐
◼聴覚障害
①中村晃大
②豊島昂太
◆回転(2日目・2月4日)
女子
◼立位
①本堂杏美 ★
◼座位
①村岡桃佳 ★
男子
◼立位
①三澤 拓
②小池岳太
③高橋幸平 ★
◼座位
①森井大輝 ★
②鈴木猛史 ★
③狩野 亮 ★
◼知的障害
①木村嘉秀
②木附雄祐
③五味逸太郎
◼聴覚障害
①中村晃大
②豊島昂太
★=平昌パラリンピック日本代表(一次発表段階)
(校正・佐々木延江)