映像制作:中村”Manto”真人
9月18日、リオパラリンピック閉会式の「フラッグハンドオーバーセレモニー(大会旗授与式)」の演出で「ポジティブ・スイッチ」をテーマに、義足や車椅子、視覚障害、ダウン症など多様なパフォーマーとアカンパニストのコラボレーションによるダンスが披露された。
障害のあるダンサー9名、非障害のダンサー10名(うちアカンパニスト4名)の合計19名により、障害のあるなしに関わらず、交わることでポジティブが連鎖し、人を、社会を変えていく様子を表現。2020東京パラリンピックの街を連想させる8分間のダンス・パフォーマンスだった。
9月19日(月)、リオパラリンピック閉幕の翌日。コパカバーナに滞在するパフォーミングアーティストのかんばらけんた氏を訪ねた。前日のセレモニーで車椅子のパフォーマンスを見せてくれた。
素晴らしいパフォーマンスでした
かんばら「雨が降っていて、車椅子が滑るなかベストなパフォーマンスができたわけではないですが、終わった後、アメージング!など口々に言ってもらえて、うまくいったのかなと思いました。日本人でパラリンピックの閉会式を観たことがある人は少ないと思いますが、今回は中継で多くの方が見てくれる。パラリンピックというスポーツの祭典で、アート・パフォーマンスをすることが、これまで障害者に関心のなかった人々にも届くものになればという意識で演じました」
このチームはいつ結成され、どのように練習してきたのですか?
かんばら「出演の決まったのは、7月の中旬。国内での練習は、静岡に泊りがけなどで5日ぐらい。山梨は日帰り、新宿での個別練習などが数日間ありました。リオのステージを想定する広い練習場所がなかったため、遠出をしての練習が多かったです。リオでは、広い場所を借りて3日間。マラカナンスタジアムでも短時間ですが、2日間は練習できました。2日前に振り付けが変わったり、ギリギリまで調整しながら本番を迎えました」
工夫された点はありますか?
かんばら「様々な障害のある人による感動を煽るのではなく、『いかにかっこよくみせるが』大事でした。それで感動してもらう。時間がない中でしたが、自分たちで考えた振り付けを組み入れていただいたりもしました」
キャストの障害のあるパフォーマーはどのように集められたのですが?
かんばら「フォーマンスなどを手がけている団体SLOW LABEL(スローレーベル)の代表の栗栖良依さんにもキャスティング協力を仰ぎ、多方面から今回にふさわしいパフォーマーを集めたと聞いています。国内で活動されている有名な障害者パフォーマーに声を掛けていきましたが、スケジュールや治安の問題などで候補者を集めるのに苦労したそうです」
現在日本に障害のあるパフォーマーはたくさんいるのですか?
かんばら「とても少ないです。パフォーマーの候補者を挙げるのも苦労するくらい。これまで障害を持ってパフォーマンスに取り組んできた人たちの持っている力を集めることになりました」
かんばらさんご自身はどのようにパフォーミング・アートの世界にたどり着いたのですか?
かんばら「私もまだアーティストとしてパフォーマンスの世界に入って1年くらい、プロのダンサーではなく、平日はシステムエンジニアをやっています。子供の頃から水泳をやっていました。車椅子陸上も、実は、花岡伸和選手などの手ほどきを受けて始めたこともありますが、背骨が曲がっている側彎の障害もあるため、なかなか良い記録がでませんでした。競技スポーツは肌に合わなかったようで、スローレーベルのパフォーマンス専用車椅子に乗ってみたくてダンスを始めました。どうせやるなら2020東京パラリンピックのセレモニーになったらいいなと思っていたところ、リオに来ることになっていました!」
多様な障害のある人がパフォーマンスを成功させるのに必要なものは何ですか?
かんばら「出演者の他に、『アカンパニスト=障害がある人が舞台上でうまくパフォーマンスできるよう、サポートする健常者のダンサー』がいます。
アカンパニストは、一緒にダンスし、ダウン症であれば立ち位置まで連れて行ったり、車椅子の方であれば下りスロープを滑らないように後ろから支えたりする役割がある。障害者とパフォーマンスをして、その障害の必要なサポートを理解している経験が必要ですが、スローレーベルで活動していた人に声がかかりました。
アクセスコーディネーターに関しては、パラリンピックの競技者にも必要な存在だと思います。ダンスパフォーマンスだけでなく、あらゆる障害のある人の活動全般に必要なサポートを手配します。専門家でなくても障害の特性を理解していることが必要になります。
アカンパニスト、アクセスコーディネーターがいたので、わずか3ヶ月の中で無事役割を終えることができたと思います」
今後、リオに出演した皆さんは今後どうするのでしょうか?
かんばら「今回のメンバーは解散となります。スローレーベルの活動は2017年2月の公演に向けて、豊洲にできるランニングスタジオで練習が続けられそうです。閉会式で一緒に出演した車椅子ダンサーの天方真帆さんも所属している「Integrated Dance Company 響-Kyo」でも2017年2月に公演があるので、そちらも練習を頑張ります。
今は車椅子に乗ってダンスができる環境が少なく、2020を機会にこれから増えていかなければと思います。
リオが始まる前までは東京五輪・パラリンピックに否定的な人もいたが、閉会式での東京チームのパフォーマンスを見て、みんなの気持ちが2020に向けて一つになったと思います。パラリンピックには、スポーツとパフォーミング・アートの接点、体の可能性というか、そういうものがあって、共に多くの人に障害者の可能性を伝えていけると思います」
(ありがとうございました)
(映像コンテンツ制作:中村”Manto”真人)