9月17日(現地時間)大会11日目、Tokyo2020ジャパンハウス。次回開催国日本・東京のPRを目的としてリオデジャネイロ・バッハ地区に設けられた施設のレセプションでIPC(国際パラリンピック委員会)会長Philip CRAVENは、ドーピングに関してIOCと異なる決断をした理由について、幣紙記者にこう話してくれた。
「ロシアパラリンピック委員会の参加を認めないという決定は、議決権を持っている13人のうち12人の賛成、ほぼ満場一致の意思決定だった」
「また、この決定にIOCからは一切異議は無かった。仮にロシア選手の参加を認めたら、あるいは東京大会を含めて問題先送りの姿勢をとったら、一般の市民や他国のアスリートはどう感じただろうか? 特に今回の問題は国が率先して行ったということで、たとえ個々のロシアの選手がクリーンであったとしても、他国選手が、同じ競技で戦うロシア選手への疑念を持ったままプレーしなければならないような状況は見過ごせない、ということだ」
リオ・パラリンピック期間の違反に関しては、9月12日に公開されたIPCのプレスリリースによると、男子重量挙げ107kg級に出場予定のサウジアラビアMashal Alkhazaiに対し、彼の経歴で2回目のドーピング違反があったとして、2016年9月11日から8年間の資格停止処分が発表された。リオデジャネイロパラリンピック開幕直前の9月4日に行われた競技会外検査の尿サンプルから禁止物質メテノロンが検出されたためである。この結果を受けて、彼はパラリンピックの出場資格を剥奪され、選手村を去ることになった。
さらに15日の公式発表で、柔道男子90kg級に出場したアルゼンチンのJudoka Jorge Lencinaが8日の検査で尿サンプルから禁止成分が発見され、10日に行われた試合の7位入賞が取り消され、失格処分となった。
これらの複数ドーピング違反の報告に先駆け、Philip CRAVEN会長は、9月7日朝、水泳競技場で行われたプレスブリーフィングで以下のコメントを残している。
「我々は、競技会&競技会外での血液と尿検査を合わせて、過去に前例が無い1500回もの検査を行い、違反があったことがわかっている」
また、こうも述べ、対策の進化も強調している。「ドーピングを防ぐには、検査より教育がより重要だと考えており、ここ2、3年で少しずつ成功例を積み重ねている。しかし、重量挙げ種目で違反が起こったように、広範囲のスポーツに渡って(ドーピングに対する)特有の文化があるのではないか。しかし、我々は最善を尽くして進化してきた」
さらに、IPCは9月8日夜に行われた開会式で、ドーピングで処分を受けたロシア選手個人出場の資格を取り消しを報告しており、IPCメディア部門のトップCraig SPENCE氏と広報エグゼグティブディレクター Mario ANDRADA氏は、同日の記者会見でこう述べている。
「ロシアにとって、IPCと世界のアンチドーピングの規約を遵守することが、パラリンピックに戻ってくることができる唯一の道であり、我々はそれを望んでいる」
ドーピングに対する選手側のエピソードとして、15日に、陸上女子400mリレーT37で金メダルを獲得した中国のJIANG Fenfenは、レース後のインタビューで、今日はどんなお祝いをしますか?と聞かれ、「マクドナルドに行く予定。ドーピング検査に合格しなくてはならないので、過度な外食を控えていたの。とても楽しみ」と答えている。お祝いがマクドナルドでの食事という、スポンサーであるマクドナルドだが、選手村での食生活は限られていることを物語っていると感じた。栄養面に配慮した選手用の特別メニューが提供されることを願ってやまない。
ロシアのドーピングに対するIPCの判断が注目されたリオ・パラリンピック。選手の健康面と共に公平な競争を阻害する面から言えば、ドーピングとは禁止薬物だけではなく、選手の障害に合わせた薬の使用についての専門的な知識が必要となってくるのではと考えられる。
また、広く言えば、薬物だけでなく、先進国と途上国での開発環境の違い、義足で運動能力が増しているのではないかという嫌疑などがあり、競技の公平性に向けてはこれからの幅広い議論があることだろう。
いずれにせよ、健康や生命への危険を伴う薬物を使用して行われるドーピングによるスポーツがあってはならないということは、今回パラリンピックにより明らかにされた。
このようなリオでのドーピング問題への対応を終えて、今後のパラリンピックについて、Philip CRAVEN会長は希望を持ってこう述べている。
「今後もパラリンピックは続いていく。2022年の北京、次の2024年に、五輪に続いて同じ場所でパラリンピックを開催することをIOCと合意している。そこでの我々の仕事の目的は、やはり高い水準を維持するということ。すでにオリンピックでなされているスポーツ競技の質をさらに高めていかなければならない」
(Philip CRAVENインタビュー:佐々木延江)