9月16日(現地時間)競技9日目、女子走り幅跳び(T11)決勝に、日本の高田千明(31歳・ほけんの窓口グループ)が出場した。
T11クラスは視覚障害を持つ選手がガイドと出場し、ガイドは声と手拍子を使って選手に助走のコースや踏切の位置を知らせる。
高田は1回目の跳躍で、自身の持つ日本記録を4センチ更新する4メートル45センチを飛び、好調な滑り出しを見せた。
しかしその後、観客席からの声援にガイドの大森盛一の声がかき消され、助走でファールを繰り返す場面が続いた。
「1回目の跳躍はまだ練習の感覚が残っていたのでまっすぐ走れたのですが、2回目からは大森さんの声がどの方向から聞こえているのかがわからなくて、ふらふらしてしまいました。一回ふらふらしちゃうと、不安になってしまって体の軸がぶれてしまうんです」
結局、高田は残りの跳躍で1回目の記録を超えられず、3回のファールを含む4メートル45センチの8位で競技を終えた。
「日本との競技環境の違いを感じました。日本の障害者スポーツの試合は、ほとんど関係者しかいないからすごく静かなんですけど、今日の試合では他の競技への歓声やBGMで本当に賑やかだった。観客の声援と会場の雰囲気にのまれてしまいました」と高田。
視覚障害者クラスの種目の時の観戦のマナーについて日本では配慮や工夫がなされているが、大勢の観客に向けたガイダンスの必要がある。ブラジルの状況に学び、より競技への理解を高めることが東京パラリンピックの課題の一つとなりそうだ。
高田の夫はデフリンピック(聴覚障害最高峰の国際大会)陸上日本代表の高田裕士。これまでアスリート夫婦として、お互いを高めあってきた。試合後、高田は「記録を更新できたのは嬉しいです。でも夫はデフリンピックで7位だったので、その順位に勝ちたかったです。俺7位だからって夫に言われそうですね(笑)。でもこうやってこの場所に立てているのも、家族の理解と協力のおかげです」と笑顔を見せた。
夫の高田裕士は今日の試合も応援に来る予定だったが、飛行機トラブルが続きニューヨークで立ち往生。ニューヨークの空港で高田の試合を観ることになった。「試合前に動揺させたくない」との思いから、そのことを妻には伝えていない。
離陸直前の高田裕士に話を聞くことができた。
「(千明は)北京、ロンドンと、二大会連続で落選して、夜はトレーニングがあるので息子に寂しい思いをさせていることもあり、ロンドン落選後はもうやめようかなとこぼしていました」
高田千明は子育てと選手の両立に競技を続けるか迷っていた時期もあったという。
しかしそんな妻に「もうこれ以上はできないというところまでやって、やり切ったなら、止めない。でも後になって、あの時もう少し続けてたら。となって後悔するくらいなら、結果はどうであれ、精一杯やってみたら?」と高田裕士が声をかけたことが、今回のパラリンピック出場につながった。家族でつないだリオへの切符となった。
「ライブで試合見てたよ。感動した。この大会で得た経験をいかして、メダルを目指そう。家族全員の力を合わせて、夢に向かってこれからも頑張って行こう」試合後の高田千明へそうエールを送った。夫婦二人三脚のアスリート生活は、これからも続きそうだ。