Paraphoto 特定非営利活動法人 国際障害者スポーツ写真連絡協議会

9月21日 (21:08)

Paraphoto Article

この「あと3秒」「あと30cm」を忘れるな

なごやん

 
すごい試合だった。ものすごい試合だった。

勝てる試合だった。勝たなければいけない試合だった。

ウィルチェアラグビー予選の第2戦、パラリンピック初出場の日本チームは、シドニー大会銀メダルのオーストラリアと対戦した。

シドニーでの決勝戦、アメリカ対オーストラリアをビデオで見たことがある。もうプロレスラーのようなすごい大男たちが、脳みそが揺さぶられるほどの激しいタックルをかけてくる。それでいて試合巧者の強豪だ。

現地入りしてからの持ち点の変更で、ベストメンバーを組めなくなった日本。しかも再審査のために今までほとんど練習したことのないメンバーセットを組まざるを得ず、アメリカ戦ではコンビネーションのタイミングがとれず、圧倒されてしまった

このオーストラリア戦はどのようなスタメンで来るのか・・・と、出てきたメンバーは、#4 島川、#5 荻野、#8 三阪、#9 田村。若干軽いが、スピードのあるメンバーで組んできた。
持ち点が 3.5点に上がって 3.0点の島川と一緒に出られなくなった #7 伊藤はベンチ。また、昨日肩にテーピングをしていた #3 福井は、その故障のためかエントリーされていない。

一方、オーストラリアも、#3 Batt が 2.5 から 3.5、#10 Vitale が 1.5 から 2.0 に持ち点が上げられており、いつものベストメンバーが組めないようだ。スタメンは #4 kersnovske、#6 Dubberley、#8 Alman、#11 Scott。エースの #1 Hucks はベンチだ。

立ち上がりから日本は、スピードを生かして先回りした効果的なスクリーンで、オーストラリアからターンオーバーを連取。3-1 と先制パンチを浴びせ、オーストラリアはタイムアウト。

バスケットボールでは基本的に接触が禁じられているから、スクリーンをかけに行くときも激しくは当たれないが、何せラグビーは思いっきりタックルして良いわけだから、スクリーンをかけるときは「ガコーン!!」と当たっていく。

オーストラリアはすぐにメンバーを #7 Boxall、#9 Ryan、#12 Porter、#11 Scott のセットに入れ替えるが、バックコートでのつぶし(バックピック)が効果的に決まり、#9 田村のアシストパスから #4 島川がゴールを重ねる。オーストラリアも #7 Boxall のゴールなどで追いすがり、11-10 と1点リードで 1Q を終えた。
 

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快調にゴールを決めていく #4 島川


2Q も日本は全くメンバーを変えず、スタートからずっと同じセットで戦っている。いきなり、ターンオーバー、ペナルティーを奪って、徐々に日本がリードを広げ始める。2Q 残り5分で 17-14 でリード。

日本ベンチ側のエンドに詰めかけた応援席も、「やるじゃないか!いけるいける!!」と、日の丸を振り回して俄然盛り上がる。あまりの盛り上がりに、ギリシャのボランティアたちも応援に加わってくれる。そして、目の前の日本のゴールライン・ディフェンスで、ゴールに入りかかった相手選手へのパスを #4 島川が強烈にカット! そして日本ボール! さらに盛り上がる!

#5 荻野、#8 三阪の献身的なブロックなどで効果的な前へのパスが重なり、オフェンスはとてもうまくいっている。心配していたタイミングの合ってきているようだ。ディフェンスも当たり負けしていないし、相手のバックピックもうまくかわしている。
オーストラリアも、残り3分で #1 Hucks を入れ、なんとか流れを取り戻そうとするが、22-18 と4点にリードを広げて前半を終わった時点で、「これは勝てる!!」と確信した。


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#9 田村のビューティフルゴール


3Q も、ローポインターで長い時間使えない #5 荻野を #1 高橋に変えただけで、ほぼ同じ布陣で臨む。オーストラリアのエース #1 Hucks が奮闘して、一人で続けざまにゴールを奪っていくが、日本もミス無くゴールを重ね、点差を詰めさせられない。相手のペナルティーでのパワープレーも、冷静に時間をかけて得点し、最後のハーフコート・オフェンスも、残り2秒で #9 田村がゴール右隅に飛び込み、34-30 と4点差をキープする。
 

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勝負のヤマは最終 4Q にやってきた。

点差を詰められなくても、国際経験豊かなメンバーが揃っていて、焦りの色を浮かべないオーストラリア。4Q 立ち上がりにいきなり、#9 田村、#8 三阪が、オーストラリアディフェンスのダブルチームに狙われ、ターンオーバーを連取される。3分間で 38-37 と1点差に詰められる。

ここからは、オーストラリアが1点差に追いつき、日本が2点差に引き離す、という時間が続く。オーストラリアの底力がじわじわとボディブローのように効いてくる。日本のオフェンスに時間がかかるようになってきた。それでも、バックコートのつぶしはまだ効いていて、きちんとパスが出る。コート中央でディフェンスにマークされても、#4 島川、#9 田村がスピードで交わして執念のゴールを決めていく。

試合終了まで残り1分。オーストラリアのゴールで 46-45 と1点差に詰められ、日本ボール。ここで得点するか、ボールをコントロールできれば、日本の勝ちだ。

#9 田村がライン際でダブルチームに合い、タイムアウトを取る。#4 島川がボールをキープするが、残り38秒に、痛恨のターンオーバーを奪われてしまい、オーストラリアボール。#6 Dubberley が#4 島川の強烈なタックルの寸前にパスを出し、残り14秒でついに、ついにオーストラリアに同点に追いつかれてしまった。

しかし、日本はあきらめない。#4 島川がサイドを高速で抜けていく。#9 田村へパス!

残り3秒、わずかな隙間へ田村が突っ込む! やった、残り3秒で勝ち越しサヨナラゴール!!!
・・・と思ったら、スコアボードに勝ち越し点が入らない・・・判定はノーゴール・・・崩れ落ちる応援団・・・「なんだよ! おい! 嘘だろ!」と叫ぶ。

さすがはオーストラリア。経験の差を見せて、土壇場で試合を延長に持ち込んだ。

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#6 Dubberley が #4 島川の強烈なタックルの
寸前に同点のパスを出す

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土壇場の勝ち越し点を奪いに、
残り14秒からコートサイドを駆け抜ける #4 島川

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#9 田村のサヨナラゴールは、無念のノーゴールの判定・・・


3分間の延長は #6 室橋、#7 伊藤、#5 荻野、#8 三阪というメンバーで臨む。高さのあるオーストラリアに、オープニングティップを制され、開始10秒で 46-47 とオーストラリアが勝ち越されてしまう。すぐに、#7 伊藤と #6 室橋に変えて、#4 島川、#9 田村を入れる。

ここでオーストラリアにテクニカルファウル。さらにこのセットでのエースの #6 Dubberley が反則で、2人がペナルティーボックスに入った。4人対2人の日本の絶対的なパワープレーになる。
日本はあわてず、相手がペナルティーボックスに入っている時間を使い切る作戦に出る。

4人対4人に戻ってから、残り 1:11 で島川が視力のゴールを決め、47-47 の同点!
しかし、ゴール前の混戦から、いいパスが #8 Alman に出て、すぐにオーストラリアが勝ち越し。残り 44秒。

ここでどうするか。#9 田村のホイールがはずれて、しばらくタイムアウトのような時間があり、メンバーが策を練る。

すぐにゴールを取りに行くと、オーストラリアに、ボールと勝ち越しのゴールを取る時間を与えてしまう。日本は時間をかけて、同点ゴールを取りにいった。

オーストラリアはゴールラインをがっちり固めに来る。#4 島川がボールを持って走り回る。時間は無くなっていく。20秒、15秒、10秒・・・ゴール左隅に、#4 島川がわずかなスペースを見つけて突っ込む。マークするディフェンダーはブロックされていない。

残り3秒! ゴールラインまであと30cm!! 突っ込め!!!

・・・しかしターンオーバー・・・呆然と天を仰ぐ #4 島川。

強豪オーストラリアを、土壇場まで追いつめた。あと 3秒、あと 30cm先にあった勝利。
初出場の日本にとって、大きすぎる勝利が、するりと手からこぼれ落ちた瞬間だった。

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4人対2人の土壇場のパワープレー。時間を使う選択。

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延長残り 20秒過ぎ、同点のゴールを狙う #4 島川

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延長残り3秒、あと 30cmとどかず、
ターンオーバーの判定に天を仰ぐ #4 島川

挨拶する日本チームに、応援団から「ありがとう!よくやった!」と歓声が飛ぶ。
悔しい重いで、でいっぱいになりながら、ロッカーへ引き上げる選手に、話を聞くことができた。

まず、本当にがんばって、17点を挙げた #9 田村。目に涙をいっぱいに浮かべている。

「悔しいね・・・ほんと悔しい!! 4Q最後のゴールは、ほんとに決めたかった・・・延長に入ったら、高さのあるオーストラリアに苦戦するのはわかってたので・・・。
 80%、90%勝てる試合だったし、絶対勝てると信じてやっていた。(土壇場でやられたのは)やはりそこが自分の甘さだと思うし、むこうのうまさだと思う。
 とにかく、めちゃくちゃ悔しい。いろんな試合をしてきたけれど、自然に涙が出るのは生まれて初めてだ。勝てると思ったんで、本当に悔しい。ニュージーランドには絶対に勝つ。いや勝ってみせる」
彼の涙を見て、自分も目が潤んで、彼の顔がゆがんで見えてきた。強い気持ちで、次に臨んでくれるだろう。

次に、ブロックにパス、ゴールと踏ん張った #8 三阪。

「こっちに来てから持ち点の変更があって、短い練習時間、そしてみんなで考えて、で四苦八苦しながらこのライン(メンバーのセット)を出し、悩みながら必死に練習した。追いつめたが、もう一歩だった。練習不足だとは思ってない。やるべきことはやった。
 昨日のアメリカ戦では、何もできなかったので、ミーティングのあと、一人になったときに、冷静に自分のやるべきことをきちんとやれば、オーストラリア相手でもいい試合ができる、とモチベーションは高いままキープできた。
 世界と戦えると感じたし、世界との差も痛いほど感じた。もう何の迷いもなくなった。
 明日のニュージーランド戦は、自分にとって特別の思いがある。チームメイトがいっぱいオールブラックスでプレーしている。コートの中で教えてもらうことはもう何もないし、笑って恩返ししてやりたい。勝ちます」
負けはしたが、本当に悩み抜いた末に掴んだこの手応え。そしてニュージーランド戦にかける強い想い。明日はやってくれるだろう。

26点を挙げ気を吐いた #4 島川。あと一歩のところで同点ゴールを決められなかった。

「すっごい悔しいです。リードしてた時間は長かったけど、一瞬のミスで同点にされてしまった。絶対勝つつもりだったから、本当に悔しい。
 相手のラインは数パターンしかないのはわかってたし、自分たちもほとんどやったことのないラインだったので、とにかくコートでのコミュニケーションを良くすることを心がけた。
 スピードも、そしてスクリーンの掛け合いもよかったし、オーストラリアには絶対に力・技術の両面で勝っていたと思う。
日本の応援がすごくて、本当にテンションが上がっていいプレーができた。本当にうれしかった。
ニュージーランドよりは、技術では格上だと思っている。勝ちに行く。」
大きな悔しさと、激しい闘志を胸に秘めて、落ち着いて語ってくれた #4 島川。クールな目の中にも、強い光が見えた。

持ち点審査のかねあいで、今日は出られなかった #11 仲里も、
「惜しかった。ベンチからも盛り上げたが、後一歩だった。ニュージーランド戦では出られると思うので、死ぬ気でがんばる」
と、力強い言葉を残して、ロッカーに消えていった。

最後に、塩沢康雄監督に話を聞いた。
「キャプテンの #3 福井が出られなくなってしまったので、最初に考えていた #7 伊藤中心のラインが使えなくなり、#4 島川中心のラインで行くことに決めた。
 オーストラリアには勝てると思っていた。残念だ。
 4Q 最後の土壇場は、タイムアウトを残してあったので、入念に指示したが、オーストラリアの経験にやられてしまった。もう1つ2つのラインを使えて戦えたら結果は変わっていたかも知れない。
 持ち点審査もまだ残っているので、ニュージーランド戦では全員を使わないといけないが、この試合での自信と強い気持ちで臨めると思う。ミスのない試合ができれば勝てると思うので、是非1勝して、後半戦につなぎたい。」
負けは負けだ。だが、大きな試練を乗り越えて、掴んだものも大きい。

この「あと3秒」「あと30cm」を、一生忘れることは無いだろう。
ニュージーランド戦では、この悔しさと、大きな自信を胸に、きっとやってくれる。

絶対勝つ!

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ニュージーランド戦に激しい闘志をのぞかせる #8 三阪

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