初めてウィルチェアラグビーを見たときの衝撃は忘れられない。
今まで、いろんなスポーツを楽しんできた。
もともと、ずっとバスケットボールをプレーしていた。バスケットファンとしては日本リーグの共同石油の中村和雄監督のバスケットや激しい指揮ぶりを楽しんでいたし、自分と同じの3ポイントシューターだった参河紀久子選手のファンだった。プロ野球では中日ドラゴンズの筋金入りのファンである。99年に神宮の夜空に舞った星野仙一の姿に涙を流し、ビールかけをした。日本シリーズでダイエーにこてんぱんにやられた悔しさは今でも忘れられない。今年はリベンジの絶好のチャンスだ。そして一リーグ制なんてもってのほかだ。
そして、学生の頃からアメリカの NBA、メジャーリーグ、そして NFL などトップリーグに強烈にあこがれた。公私ともども、何度もアメリカに行ってはメジャースポーツのゲームを見まくった。Magic、Worthy、Jabbar らの Los Angels Lakers の展開する "Showtime Basketball" にとことん魅了された。Joe Montana がスーパーボール3連覇をかけて臨んだ NFC Championship Game で後ろから潰され怪我をしたのに悲鳴を上げた。仕事でカリフォルニアに住んでいた頃は、Giants や A's のメジャーリーグの試合に通いつめた。イチローには頑張って欲しいが、マリナーズは「やっぱり敵だ」という感覚がどうしても抜けない。
サッカーは子供の頃はあまり触れる機会に恵まれなかったが、たまたまアイルランドの人たちと仲良くなって、彼らの祖国が初出場した86年のワールドカップ・イタリア大会を、深夜に酒を飲みながら多くのアイルランド人と大騒ぎしながら応援し、ルーマニアに勝った勢いで街に繰り出し、朝まで大いに盛り上がったのは楽しい思い出だ。その後、たまたま仕事で94年のアメリカ大会に関わることになったこともあって、ワールドカップや日本代表の試合はフォローしている。昨日V2を達成したアジアカップでの劇的な試合には本当に感激した。
そして、一生に一度はどうしてもナマで体験してみたかったオリンピック。念願叶って、今、アテネに向かう機内でこれを書いている。女子バスケットボール、ソフトボールなどを中心に、現地で死に物狂いで応援してくるつもりだ。
まあ、多少のめり込み過ぎのきらいはあるが、その辺によくいるタイプのスポーツファンなんじゃないかと思う。スポーツをするのも見るのも本当に楽しい。
でも、「障害者のスポーツ競技」は、これまで全くといっていいほどまともに見たことがなかった。残念ながら興味を持ったこともほとんどなかった。
時々、教育テレビの福祉関係の番組や、パラリンピックのドキュメンタリーなんかをなんとなく観ていて、「障害を持った人のリハビリは大変なんだなあ」「結構激しいスポーツなんだなあ」という漠然とした感想を持っていたに過ぎなかった。
実際、そんなスポーツファンがほとんどなのが現状ではと思う。ブログをいろんなキーワードで検索してみるといい。当たり前だが、出てくるのはメジャーなスポーツの話題ばかりだ。
今回、たまたまパラフォトの佐々木さんに声をかけられて、アテネオリンピックに引き続いてパラリンピックも観戦することになったとき、あらためて「障害者のスポーツってどんなのがあるのかな・・・沖縄にもチームあるのかな? 一度見に行ってみよう!」と思い立って、Google で検索して引っかかったウィルチェアラグビーの Okinawa Hurricanes の練習を見に行った。「ウィルチェアラグビー」っていう競技自体、全く知識はなかったが、ネットでルールなどをぱらぱら見て、「なんかスゴそうだぞ・・・」との予感はあった。
その日受けた衝撃は今でも忘れられない。「このスポーツはメチャメチャ面白い!」興奮してなかなか寝付けなかった。
ウィルチェアラグビーは、Hurricanes の神里さん(元日本代表)いわく、
「いろんなスポーツのいいとこ取りをした競技」
である。「ラグビー」といいつつ、バスケットボール、アイスホッケー、バレーボールなどの面白い要素もうまく組み合わせてデザインされていて、全く違ったゲームの醍醐味が生み出されている。
初めて見ると、どうしても車いす同士の激しいぶつかり合いに目が行ってしまいがちだ。「ラグビー」だから「タックル」していいわけだが、あんな金属的なすごい衝撃やその音は、他のボールゲームでも滅多にない。あるとすればフットボールのヘルメットとヘルメットのぶつかるタックルくらいだろうか(今は脳震盪を起こす人が多いので NFL では反則を取っているが・・・)。
しかし本当に面白いのは、やはりゲームの戦術・戦略、そしてさまざまなバリエーションのある頭脳的なプレー、そして流れを奪い取り奪い返すゲーム展開の醍醐味だ。タックルはその一要素にしか過ぎない。
プレーの戦術はとてもバスケットボールに似ている。ハーフコートオフェンスの基本プレーには、バスケットボールの「スクリーン」と「ポストプレー」に近いものがあって、それを考えるとわかりやすい。ゴールラインを守る3人のディフェンダーに対し、激しく駆け引きしながらスペースやフリーの選手をつくる。当たりの強い選手がゴールライン近くでいいポジションを取れるかどうかが大きなポイントだ。ただしスクリーンもポジション取りもバスケットならファウルになる「タックル」をしていいわけだから、激しさ倍増だ。
クイックネスのある「ボーラー」の選手がタテにゴールに向かってドライブインしていく。ポストプレーヤーがゴールライン前でディフェンスを押さえ込んでスペースを作れば(「ふたをする」と言うそうだ)、そのスペースに突っ込んで得点する。タックルされて詰まれば、ポジションを取っているプレーヤにパスアウトしてパワーで得点させる。まさにポイントガードとポストプレーヤーの関係だ。
また、ウイルチェアラグビーの特徴的な戦術として「バックピック」が面白い。いろいろなパターンがあるが、バックコートで相手の選手を車椅子で雪隠詰めにして押さえ込んでしまうのだ。1対1、2対1で車椅子の車体を使って動けなくしまう。オフェンス側もディフェンス側も使う戦術だ。特に得点された直後に、ディフェンスのエースをオフェンスの障害の重い選手(持ち点の低いロー・ポインター)がダブルチームで押さえ込んでしまうと、オフェンスがとても有利になる。この間は 2対3でディフェンスがアウトナンバーしているわけだが、ディフェンスのエースがプレーに参加できないので、パワーバランスが崩れ、しかも人数が少ないからスペースも取りやすく、攻めやすい。
普通、バスケットでもサッカーでも、たいていのボールゲームでは「アウトナンバーする状況をどうやって作るか」を必死になってやるわけだが、相手にわざわざアウトナンバーさせて有利な状況を作り出すスポーツは初めて見た。面白い。
ファウルがあれば、その選手はペナルティーボックスに入れられる。その間は4対3のパワープレーになる。アイスホッケーと同じだ(最近のラグビーも酷い反則には10分間の退場がある)。1分間だが、相手が得点した段階でもペナルティボックスから出られる。オフェンスのバックコートの時間制限はあるが、フロントコートの時間制限は無いので、点差や残り時間でそのパワープレーの意味が変わってくる。ある意味オフェンスが有利な競技なのだ。
これら「ポストプレー」「バックピック」「パワープレー」は数あるウィルチェアラグビーのゲームの醍醐味のうち、ほんの一部に過ぎない。持ち点よるチーム構成や戦術の変化、激しい当たりでのボーラーのつぶし、コンビプレー、スピードとパワー、トランジションゲーム、チェンジディフェンス、そして激しい気迫・・・もっともっと、さまざまな要素や面白みがあって、とても奥が深い競技だ。Hurricanes の練習でわからなかったことも、先日、日本代表チームの新潟合宿を2日間見学させていただいて、そのレベルの高いプレーでさらに面白みが少しづつだがわかってきた。もっとたくさん試合を観たい!
その後、車椅子バスケットの「シーサークラブ」や、車椅子ツインバスケットの「沖縄フェニックス」の練習やゲームを見に行くようになって、短時間で、障害者のボールゲームにどんどんハマッていく自分がそこにいた。あっという間に、Okinawa Hurricanes ではチーム広報としてホームページなどで、チームの一員としてサポートしていくことになった。チームに属するのはバスケットボールのクラブチーム以来だから、とても新鮮な気持ちだ。
この「このスポーツはメチャメチャ面白い!」のコラムでは、沖縄で見た各チームの練習や、アテネパラリンピックでの観戦や体験を通して、一般のスポーツファンの目に思いっきり新鮮に映った障害者のスポーツ競技を、シンプルに楽しみ、そして勝負にこだわるスポーツファンの視点と言葉で書いていきたい。そして、少しでも多くのスポーツファンの人たち、特に「この間までの私」のような人たちに、これらのスポーツの魅力がわかりやすく伝えられればと思う。そしていろいろなかたちでの理解や普及に少しでも力になれれば、と強く思う。
沖縄からオリンピックとパラリンピックを通じてただ一人、アテネに出場する Okinawa Hurricanes の仲里進選手のレポートや、ウイルチェアラグビーの観戦レポートは、このコラムとは別に
「沖縄からアテネへ ウィルチェアラグビー・仲里進の挑戦」
で書いていきたいと思う。
初めて観戦する障害者のスポーツの大会が、その最高峰である『パラリンピック』とは、なんとも幸運だし、ある意味おこがましい限りでとても恐縮なのだが、早い時点で最高のレベルのゲームを観られるのは、インスパイアされるものも大きいだろうし、今後もより長く楽しんで、そして積極的に関わっていけるような気がする。そして感動の幅を広げていきたい。
これから一般のスポーツと同様に、さまざまなかたちで障害者のスポーツを見て、さらにチームの現場に関わっていくにおいて、いろんな現実を目の当たりにしていくことだろう。しかし、スポーツファンの視点、そのスポーツに初めて魅せられたときの感動を忘れずに、勝って喜びを分かち合い、負けて悔しがり、次へのバネにして・・・そして楽しんで行きたいと思う。
これは「スポーツ」なのだから。
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