パラフォトニュース
記事掲載日:2003/11/17

INAS−FID資格登録セミナー終わる

2003年11月16日(日)午前9時30分より、INAS-FID(国際知的障害者スポーツ連盟)選手の資格登録に関する講演が、同連盟の幹部、技術担当者の来日のもと六本木ヒルズで行われた。この来日を日本側でエスコートしたのは、昨年、INAS-FIDサッカー世界選手権大会を運営した「INAS-JAPAN/INAS-FID(国際)設置推進委員会」(神奈川県横浜市西区)のメンバーと、INAS-FIDアジア・南太平洋地域委員会事務局長箕輪一美さんである。コーディネーターは、昨年のサッカー世界選手権記念シンポジウムでもコーディネータを努めた杉山茂(スポーツ・プロデューサ)さん、司会は、PWLスポーツ・文化振興協会の岩間栄さん。

photo ジョス・マルダーINAS-FID会長の挨拶では「ここにいる皆さんは、私を知的障害について専門と思っていると思うが、いまこの講演を改めて聞く聴衆の一人でもある」とし、この問題の難しさをうかがわせた。また、日本に本部を設置するという計画については「日本は(その役割を担うための)素晴らしい環境がある」とし、日本への連盟本部移転・設置に前向きな姿勢を示していた。

photo 講演の前半は、"「知的能力」その概念・定義・分類"として、知的な障害について本質を問う、歴史、医療、社会・制度、臨床にわたる研究といきさつについて連盟副会長であり、資格委員でもあるトレバー・パーメンター氏より講義が行われた。
 後半は、INAS-FID資格委員長であり、シドニーパラリンピック以降、IPCとこの問題に関する折衝を担当してきたジェニファー・マクタビッシュ委員長からこれまでの取り組みと今後の方針の基盤になる考えが話された。その基盤の軸は、知的障害とは「個人と環境(生活・医療・社会など)の相互作用を含めた動的過程」であるとし、「健康状態」「活動の限界」「心身機能と構造」「社会参加の制約」に影響をうけるとしている(ICF)。その上で、知的障害をもつ選手への"質問票"である「SIC-Q」と「プレテスト(コーチングスタッフに対し、一人の選手についての質問を2週に1度、68の質問を行う)」の実施、その結果が意味する物事についての考え方が今後の資格登録ににも採用されることを踏まえて述べられた。

photo この2人の講義でいずれにも共通しているのは「知的な障害がスポーツに与える影響」がまだまだ計り知れないということ。専門的かつ実践的な取り組みの報告の一方、基本的に、目に見えにくい知的障害の特性は、専門家が関わることによって事件や不正を防がなければならないとしている。2001年、INAS-FIDと加盟国に設けられた各国資格委員会が、2004年アテネパラリンピックでの公開競技参加に向けた資格、INAS-FIDグローバル大会参加資格でそれぞれ「SIC-Q」と「プレテスト」を活用し、アテネ以降、トリノ、北京で行われるパラリンピックへの「正式参加」を目指し、IPCとの折衝が続けられる。

photo これらの発表に対し、会場との質議応答が行われた。精神科医の宮崎伸一氏から「スポーツをすることで知的障害が改善することもあると思う。基準の中に発症が18歳未満であるということがありますが、スポーツをすることでIQが上がることもあると思う。そのことが選手の資格にはどのように関係してくるのか。」また、2002年サッカー世界選手権大会で日本代表のコーチをしていた小沢通晴氏より「ツール(「SIC-Q」と「プレテスト」)については理解できた。(それ以前の問題として)各国の事情が違う中で、IQが適正か、専門家の数や育成は明確にできるのか。コーチの意見が反映されると思うが、その視点が適切かどうか。それらについてどう考えるか」などの質問があった。また、最後に「アテネ大会は公開競技としての参加が認められているが、その後のIPCとの交渉の計画として、トリノ、北京での正式参加については、段階的にはどのように取り組んでいくことを考えているか」という質問を当法人からも行なった。これらの質問には、それぞれの講師、最後の質問にはジョス・マルダー会長からも回答をいただいた。この質問の意図と回答については、ここでは省略する。

photo 最後に、コーディネータの杉山氏が会を締めくくる言葉を次のように述べた。
「スポーツがもっているフェアプレーの精神が現代の社会に求められていると思う。日本ではスポーツが立ち後れた歴史をもっている。今回のスローガンである『スポーツは障害をこえる』は、スポーツを通じてつながっていくというメッセージではないでしょうか。このことを、関係者のみなさんへのメッセージとしていきたい。
 スポーツというのは、大衆化したあと、高度化していくという面がある。そこにはルールができる。ひとつのスポーツは、はじめはごくかぎられた人間のものだが、それが大衆化して一般化していくときにルールが必要となっていく。
 オリンピックにおける「アマチュアリズム」が典型的な例である。障害者のスポーツもいよいよ「アマチュア」というものに価値をおき、一般化していく過程を経ていこうとする流れのなかで、この資格の問題はでてきたことと思う。
 長野前の1977年、当時のIPC会長が『我々がこれから進んでいく道はコマーシャリズムだ』と言っていた。その当時、私は、テレビ(NHK)の仕事をしていた。障害者のスポーツがそこまで来ていた!ということ、この言葉に非常に驚いた。IPCではすでにエリートスポーツの道をあゆんでいた!
 日本はパラリンピックに関して商標権利を認めていない。
 障害者のスポーツが発展するための方法としては、私個人は、そのことが一番の関心につながります。シドニの資格の問題は残念なことですが、今後のIPC とのステップを踏んでいく問題と思う。身体的な問題と異なり、チェックが難しいからこそ、フェアプレーということもむずかしい、とは思う。しかし、「フェアなものに」ということで踏み出したのであれば、そうい意味において、今後大きな努力をしていくことは必要。
 最初は、知的障害のなかにエリートスポーツが存在するということに疑問を感じていたが、昨年のサッカーをみて、自分の偏見であることがわかった。マリ、サウジアラビアの書類の不備、これについてもオリンピックがたどってきた道だと思う。
 現在、世界のあらゆるスポーツがかかえている問題は「ドーピング」である。IPCやINASと一緒にこの問題をすすめていくとしたら、(日本は)スタッフを相当充実させていかなければならない。トレバー氏が言うように「体制が整えられていない」ということがある。(現在)「そのこと事態が体制」なのではないかと思います。それを理解する、ということが「あらゆるスポーツがとってきた道」、「プロフェッショナルへの道」となっていく。INASというスポーツが、知的障害者のすべてがエリートスポーツを目指すわけではなく、一握りの才能者のものになっていく。その部分に関しては、(オリンピックと)変わらない。熱中して、大きな国際大会を目指していくための道、そのための体制づくりをしていくことが重要。INASの本部が東京にできることは日本にとっては本望。これからは具体的にしていくことが大事。『スポーツは障害をこえる。』今回のセミナーを通じて、これから新しい展望が開く。新たな道のための策略が必要その道のエキスパートとなる。あせることはない。」

photo 11時50分、講演が終了した。

【取材:佐々木延江 写真:森田和彦】

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