視覚障害者柔道レポート・第2回
今夏のアテネパラリンピックでは、視覚障害者柔道で初めて、女子の競技が行われる。日本からは、ただ一人、赤塚正美選手(32)が出場する予定だ。柔道は日本の伝統スポーツだが、女子の視覚障害者柔道人口は少ないそうで、赤塚選手が紅一点の挑戦になる。
女子柔道といえば、前回のオリンピックで金メダルと獲得し、最近、野球選手と結婚して話題になった田村亮子(谷亮子)選手を思い浮かべる人が少なくないだろう。小さな体で素早い技を展開する田村選手。「最高で金メダル、最低でも金メダル」という気合に溢れたセリフも記憶に新しい。
パラリンピック代表候補の赤塚選手は、田村選手のように闘志を前面に出すタイプではない。国内大会で優勝という実績を持ちながら、「私、いまだに柔道の試合に向いてないと思うんです。闘争心とかあまりないんですよ」とさえ話す。しかし、自分自身の柔道や今後の夢について語る赤塚選手は、とても楽しそうで、魅力的だった。
●「練習してきた技を思い通りに」
女子48kg級・赤塚正美選手
赤塚選手が柔道を習いはじめたのは、社会人になってから、20歳の頃だ。学生時代、体育でマット運動を楽しいと感じていたことや、趣味で器械体操をしていたことなど、もともと柔道を好きになる素質は持っていたようだが、最初は、「護身術になるかと思って、技を少し覚えてやめてしまうつもりだった」という。しかし、柔道は、赤塚選手を捉えて離さなかった。
柔道を始めた翌年、赤塚選手は、視覚障害者柔道の全国大会に出場し、いきなり優勝してしまう。赤塚選手自身は、「何にも知らないままにでてしまった」そうだが、実はこの優勝で、北京で開催されたフェスピックに出場する権利を獲得する。そして、北京フェスピックでは、第3位にくいこんだ。
柔道のキャリアも10年近くとなった今、「自分の練習している技を、どんな相手でも、どんな状況でも、思いどおりにかけられる柔道を目指している」と話す赤塚選手。
得意技は、大内刈りと背負い投げ、体落としだ。アテネでは、今、一番熱心に練習している背負い投げをかけたいという。
一方、課題としているのは、スピードとパワー。海外の選手に対抗するには、技にスピードをつけ、力をつける必要があると考えている。また、海外選手はレスリングと混ざったような日本の選手にはない柔道の技を繰り出されるため、そういう「変な技」にも対策が要るそうだ。
もちろん、メダルの獲得も目標だ。ただ、赤塚選手の柔道は、アテネで終わりではない。
「できないかもしれないけど、外国で子どもに柔道を教えてみたい」。
赤塚選手の柔道の夢は、ずっと先まで続いている。
【河原由香里】