2002.03.13 〜番外編〜
特集! パラリンピックで選手と共に
〜活躍する日本人。スレッジ会場で聞いた、プロの仕事〜
●笠原 芳文さん Yoshifumi KASAHARA
アイススレッジホッケー公式審判員
試合の熱気が残る会場で。 |
連日熱戦が繰り広げられているアイススレッジホッケーのリンクの上に、ひとりの日本人がいる。
笠原 芳文さん、彼は今大会スレッジホッケーの公式ラインズマンとして参加している。審判の数は全員で主審4名とラインズマンが7名の計11名。審判員も世界各国から集まっている。
ゲームで氷にのるのは、主審が1名、ラインズマン2名。ラインズマンの仕事は、主審をサポートすることだ。45分という限られた時間の中でプレーヤーと共に戦い、ゲームをコントロールできることが、審判の醍醐味だと笠原さんは言う。
今大会ではじめて笛を吹いたのは、2日目のノルウェー対スウェーデン戦。3強といわれるうちの2つのトップチーム同士の対決。試合後、「こんなにレベルの高いゲームのジャッジができて、興奮しました。」と汗を拭った。2度目は、地元アメリカ対スウェーデン戦。アメリカの驚異の3連勝という状況で迎えた4日目。観客は6500人もの超満員。あまりの大歓声に審判の笛の音が聞こえなくなるくらいの盛り上がりをみせるなか、堂々と裁いた。「地に足がついてジャッジできました。6500人ものまえで吹けるなんて、幸せです。」
日本での仕事は、日本のスレッジチームの長野サンダ―バーズの本拠地「岡谷やまびこスケートの森」の社員。アイスアリーナの管理をすると同時に、競技のコーチもやり、選手をずっとサポートしてきた。
アメリカ戦で笛を吹く。(Eセンターで山口写す) |
転機は突然やってきた。2年前の世界選手権で、「誰か日本人で笛を吹ける人はいないのか」と声をかけられ、コーチとして参加していた笠原さんがたまたまレフェリーの資格をもっていたために、突然その場で審判をすることになったのだ。「全くそのつもりはなかったのに、その選手権で5試合もジャッジしました。何の心の準備もしてなかったし、ちょっと氷にのれればいいかなーという程度にしか考えてなかったのに」と苦笑する。
スレッジホッケーのルールはアイスホッケーと道具が違うこと意外はほとんど変わらない。ただ、ジャッジをするにあたって、スレッジの場合はそりに乗るため、選手と審判の目線の位置が違うところが難しいところで、一番気を付けるところだという。普段からスレッジホッケーに携わっていないとなかなかできない仕事だ。
当時はためらったことも多かったが、日本が国際試合をこなすたびに、笠原さんも上達した。そして、パラリンピックでのラインズマンという大きな仕事。「オリンピック会場の氷の上で、笛を吹いた日本人は私だけ。もう、これは一生の宝物です。緊張もしますけど、これがあるからやめられない。なんか居心地がよくなってきました」と笑って話す。
スレッジホッケーの組織自体が国際アイスホッケー連盟の傘下に入っていないため、今の資格ではアイスホッケーの試合を裁くことはできないのだそう。次回のトリノパラリンピックまでの4年間で、もしスレッジの組織が国際アイスホッケー連盟にはいったとしたら、そのための国際免許もとらなくてはならない。しかし、笠原さんの夢はトリノにある。「ここまできたら、やっぱり主審をやりたいですね。組織の動向がどうなるかはわかりませんが、やれるところまでやるつもり。心の準備はいつでもしておくので、呼んでくれたらいつでも行きますよ」。頼もしい言葉で、最後をしめくくってくれた。
ソルトレークパラリンピックもラストスパートを迎えている。スレッジホッケーは残すところ予選の最終日と順位決定戦。選手と、そして大観衆と共に戦う笠原さんに、さらなる今後の活躍を期待したい。
●布津 洋子さん Yoko FUTU
パラリンピック公式計時担当・セイコータイムシステム(株)
熱戦が繰り広げられている試合をバックに。 |
アイススレッジホッケーの会場、Eセンターには、リアルタイムで試合を映し出す大画面のほか、得点や時間を知らせる電光掲示板が観客席をかこむようにいくつもある。これらは、パラリンピックソルトレーク大会の公式スポンサー、SEIKOが担当している公式計時だ。
2つのペナルティボックスの間にあるリンクサイドの審判席。ここには、得点・試合時間・ペナルティタイムとペナルティを課せられた選手名などを操作する操作盤が3つある。これらを通して、情報をコンピュータで送り、瞬時にリザルト(結果)とスコアボードなどに送る。
連日、会場はスレッジホッケーに魅了されたファンに埋め尽くされる。スピーディな動きと迫力あるボディチェックは、観客にとって最高の見せ場。アイスホッケーが国技のアメリカの人は、とにかく試合を楽しんでいる。それは得点や時間、ペナルティタイムなどがどのような意味をもつのかを知っているからだ。表示される掲示板は、めまぐるしい展開でゲームが進むスレッジの試合にとってはなくてはならない大切なものなのだ。
Eセンターに配置されているスタッフは、4名。試合を熱いまなざしで見つめるスタッフのひとり布津洋子さんは、スレッジの魅力に胸を打たれていた。「本当に迫力あるスポーツですね。”障害者”のイメージなんて、まるでありません」と話してくれた。
オリンピックから通して、今回のパラリンピックでも全競技会場で、SEIKOの計時は選手の活躍を記録しつづけている。感動の瞬間をサポートする技術者たちにも、拍手を送りたい。
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